アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「もらえる訳ないだろ、そんな高いもの。いくら要らないからって」

つーか、俺も要らないっての。

俺、ゲームやらないし。そんな時間もないし。

「だって、自分も使わないしさ。チビの争いの種になるよりは、誰かに使ってもらった方が良いだろ?売るのは勿体ないし」

「それは…そうだけど…」

「『欲しがってるクラスメイトがいたからあげちゃった』って言えば、さすがのチビ共も黙ると思うんだよ。棚からぼた餅が降ってきたと思って、もらってやってくれねぇかな」

「…」

…そう言われてもな。

実際、そんな都合よく棚からぼた餅は降ってこない。

「乙無…。あんたもゲーム機なんて持ってないだろ。もらってやったら?」

俺は、そっぽを向いて無視を決め込んでいる乙無に声をかけた。

しかし。

「僕にはそんな暇はありません。遊んでる時間があるなら、邪神の眷属として罪の器を満たすべく…」

「あー、はいはい。いつものな」

「ちょっと。何ですかいつものって」

いつものだろ。他に何て言えば良いんだ。

要するに、乙無もテレビゲームには興味がないと。

雛堂んところの弟達(と言っても、血の繋がりはないらしいが)は、喉から手が出るほど欲しがっているものなのに。

俺達は思いっきり持て余してるんだから、皮肉なもんだ。

「ってな訳でもらってくれる人がいねーから。星見の兄さん、気にせず引き取ってくれ」

「そう言われてもな…。気にするなって言われても気が引けるって言うか…」

「それにほら、星見の兄さん家には、無月院の姉さんがいるだろ?」

…え?

「兄さんが遊ばなくても、無月院の姉さんは遊びたいかもしれないじゃん。案外ゲーム、ハマるかもよ?」

…確かに、と思ってしまった。

俺は興味無いけど、寿々花さんはどうだろう。

上手くゲームにハマってくれたら、今後、俺がお医者さんごっこや早口言葉に付き合わされることはなくなるのでは?

それは盲点だった。

「確かに…。寿々花さんにはハマるかもしれないな」

「だろ?姉さんの為にも、受け取ってくれよ」

…そういうことなら、分かった。

「…じゃあ、有り難くもらっておくよ。ありがとう」

「おう、どういたしまして。そのゲーム機を自分だと思って大切にしてくれよ」

形見分けかよ。

受け取ってしまったから、これでもう俺と雛堂は共犯だな。

もし今、乙無か他のクラスメイトが先生達にチクったら、俺も一緒に停学処分だ。

頼むから、誰も密告しないでくれよ。

まぁ少なくとも乙無は、そういうことはしないだろうけど。

「あ、そうだ。一緒に送られてきたソフトも同封してるから、帰ってテレビに繋いだらすぐ遊べるぞ」

「どうも…。今度何かお礼するよ」

「おう、期待してるぜ」

…雛堂から、思わぬプレゼントをもらってしまった。

果たして我が家の寿々花お嬢さんは、この新しい玩具を気に入ってくれるだろうか?
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