アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「初期設定?あかうんと?」

きょとん、と首を傾げる寿々花さん。

「最初に設定するよう言われなかった?」

「あぁ…うん。インターネットの設定とか、ユーザー作成のこと?」

「そう、それ」

「うん、やったよ」

…え?

やった?…寿々花さんが?

「オンラインに加入するよう言われなかった?有料で…」

「うん、言われたよ」

「買ったの?それとも、7日間無料お試しでやってる?」

「買ったよ。一ヶ月300円だったけど、年間で買った方が安いから、クレジットカードで引き落とすように設定した」

「あ、成程。プリペイドカードじゃなくて、クレカで払ったのな」

…。

…俺には全然分からない、意味不明な会話が目の前で繰り広げている。

一つ確かなことがある。

…もしかして、寿々花さんを機械音痴だと思っていたのは、とんでもない誤解だったのでは?

「私のアカウントと、悠理君のユーザーアカウントも作ったんだよ。ほら」

「あ、本当だ。そうだな、二人で使うんだから、アカウント2つ持ってた方が良いよな」

「でしょ?『ゆうりくん 1ごう』ってニックネームのアカウントが私で、…こっちの『ゆうりくん 2ごう』ってニックネームが悠理君ね」

寿々花さんのアカウントなのに、何で両方共俺の名前つけてんの?

自分の名前つけろよ。

「へぇー…。初期設定もネットとの接続も、有料オンラインの購入もやったってことね」

「うん、やったー」

「ってことは、結局自分が手伝うまでもなく、無月院の姉さんが全部自分でやっちゃったんだな」

…。

…マジで?

まさかの、機械音痴は俺だけだった。

「寿々花さん…。あんた、ぽやんとしていかにも機械音痴みたいな顔をして…そんなこと出来たのか…」

「ほぇ?機械音痴?」

それなのに、何で洗濯機の使い方は分かってないんだ?

おかしいだろ。

スマホすら持ってないから、てっきり機械の扱いが苦手だと思っていたのに。

全然そんなことはなかった。

むしろ、俺より遥かに機械に強い。

「星見の兄さんよ。どうやらお宅の嫁ちゃん、兄さんの予想以上にハイスペック嫁ちゃんだぞ」

「…そうみたいだな…」

俺、寿々花さんのこと見くびってたよ。

済みません。アホなのは俺だけでした。

「続き、やっても良い?」

「あ、うん。どうぞ…」

対戦を再開する寿々花さん。

…どうしてくれんの、この空気。

「自分が手伝うこと、何もなかったみたいだけど…。この場合、自分は尻尾巻いて帰った方が良いんだろうか?」

「いや…でも、折角来たんだからカツ丼は食べて帰ってくれ」

「タダで食べさせてもらって、なんか悪い気がするなぁ」

ごめんな、雛堂。

手伝ってもらうつもりで、わざわざ来てもらったのに。

まさかこんなことになるとは。思ってなかったよ。
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