アンハッピー・ウエディング〜後編〜
その後もしばらく、寿々花さんはスマシスというゲームに励んでいた。

雛堂が言うには、これはコンピューターを相手に戦っているのではなく。

リアルタイムで、世界の何処かで同じようにスマシスをプレイしている、生身の人間が操作している対戦相手と勝負しているのだとか。

コンピューターじゃねぇんだ。凄いな。

一月300円程度支払うだけで、自宅でオンライン対戦が出来るなんて。

時代は進歩したものだ。

それより驚いたのは、寿々花さんのゲームの腕前だった。

俺はスマシス未プレイだが、傍で見ているだけでも分かる。

コントローラーの動きが、最早プロのそれ。

どういう反射神経してんの?って聞きたくなるような動きなんだもん。

スマシス経験者である雛堂は、絶賛を通り越して、むしろちょっと引いていた。

「初心者の動きじゃねぇ…」って。

なんかよく分からないけど、とにかくめちゃくちゃ凄いらしい。

それなのに、その偉業(?)を軽々と成し遂げた寿々花さん本人は。

相変わらず、普段と同じぽやーん顔でプレイしているもんだから。

手の動きと表情が一致してないんだけど?

寿々花さんって、ゲーム上手かったんだな。

俺も、本人でさえ、今日まで知らなかった。

人間、自覚がないだけで意外な特技に才能があるもんなんだなぁ。

まぁ、寿々花さんは元々結構ポテンシャルの高い人だからな。

そうでなきゃ、あのお嬢様揃いの聖青薔薇学園女子部で、校内1の成績を取ったりしないだろう。

寿々花さんを見くびっちゃあいけない。

…すると。

「ふー。勝ったー」

「…おめでと…」

対戦相手をボコボコに打ちのめし、崖下に叩き落として。

もう何度目になるだろうな。

さっきからずっと、寿々花さんは負け知らず。

一度も敗北することなく、連勝を重ねていた。

もうこのまま、いっそ行けるところまで行ったらどうだ?

しかし。

「はい、悠理君。悠理君もやって良いよ」

寿々花さんは何を思ったか、俺にコントローラーを渡してきた。

…え?

「俺…?俺がやんの?」

「うん。私ばっかりやってたら不公平でしょ?悠理君もどうぞ」

いや、俺は別に…。

見てるだけで、充分お腹いっぱいだけど…。

しかし、傍で見ていた雛堂が。

「良いじゃん、星見の兄さんもやってみなよ。二人で組んで全国制覇も夢じゃねーかもよ」

全国制覇したい訳じゃないんだけど。

…まぁ、でも、雛堂がそう言うなら。

折角だから、俺もやってみようか。

「早速対戦する?」

「いや、俺初めてだから…。まずはコンピューター相手に練習とか出来ねぇの?」

「分かんない。私、最初からオンライン対戦したから」

初めてコントローラーを握って、最初からオンライン対戦に挑んで、しかも勝利したのか?

寿々花さん、あんた天才過ぎるだろ。スマシスのプロ目指したら?  

とてもじゃないけど、俺はそんな器用な真似は出来そうにないので。

「トレーニングモードってのがあるよ。まずはレベル1のCPUと対戦してみたら?」

雛堂が、そう教えてくれた。

良かった。一応、練習はさせてもらえるみたいだ。

それじゃあまずは、基本的なボタン操作から学んでいくとしよう。
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