アンハッピー・ウエディング〜後編〜
寿々花さんが、あまりにも軽々とプレイしていたから。

意外とこのゲームは子供向けで、誰でも簡単に出来るものだと思っていた。

スマシスを甘く見ていた、さっきまでの自分をぶん殴りに行きたい。

「ちょ、星見の兄さん。ジャンプ。ジャンプして崖掴みしないと。吹っ飛ばされてそのまま落っこちてどうするんだよ」

「え、え?ジャンプってどのボタンだっけ?」

「ちが、それは掴みだって!」

吹っ飛ばされて、為す術もなくひらひらと落っこちていく俺のキャラクター。

「うわっ。何だ?いきなり動かなくなったぞ?」

「シールド張り過ぎなんだって。一定時間シールド張り続けてたら割れるって、さっき説明したろ?」

「そ、そんなこと言われても…」

頭の上でひよこが踊りながら、ふらふらとその場で千鳥足の、俺のキャラクター。

「よし、そこだ。星見の兄さん。スマッシュだ。スマッシュ!」

「す、スマッシュってどうやってやるんだっけ…?」

「それは弱攻撃!サドンでもあるまいに、弱でバースト出来るかよ…!」

…さどん?バースト?

初心者にスマシス用語はやめてくれ。意味が分からない。

俺のキャラクターは、ステージの上であっちにふらふら、こっちにふらふら。

突然暴発したようにジャンプをしたかと思ったら、虚空に向かってパンチとキックを繰り出し。

ついには、CPUのスマッシュ攻撃で、お星様と消えた。

画面いっぱい、「You Lose…」の文字が出てきた。

…終わった。負けちゃった。

「…」

「…」

「…ちゅー」

俺と雛堂は、テレビの画面を見ながら無言。

寿々花さんだけは、相変わらずのぽやーん顔で、オレンジジュースのグラスに入れたストローを啜っていた。

「…ごめんな、星見の兄さん」

沈黙を破った雛堂が、口を開いた。

「レベル1のCPUに負ける奴がいるなんて、正直都市伝説だと思ってたわ」

…雛堂、真顔。

そうか…。どうやら俺は、生きる都市伝説だったようだな。

…全然嬉しくねーけど。

寿々花さん、今何を考えてるんだろうなぁ。

同じ初心者なのに、片方は初日で全国の強者に連戦連勝。

片方は、レベル1のCPUにフルボッコ。

何なんだ。この差は?

「うちの幼稚園のチビでも、さすがにレベル1のCPUには勝ってるぞ」

俺、雛堂ん家の幼稚園児以下。

そこまで弱い…?そんなに…?

俺には、スマシスの才能が皆無であるらしい。

「良いか、星見の兄さん。兄さんは決して、無月院の姉さんと組んでチーム戦なんかしたら駄目だぞ」

「な、何で?」

「決まってんだろ。姉さんの足を引っ張りまくって、世界戦闘力が激減してVIP落ちしたら、それ星見の兄さんの責任だからだよ」

「…」

…足手まといはついてくんな、ってことだな。分かりました。

ごもっとも。

寿々花さんには悪いけど、俺はもう金輪際、スマシスはやらないことにするよ。
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