アンハッピー・ウエディング〜後編〜
何だ。魂抜けてんのかと思ったら、意外と普通に喋るじゃん。

一応聞こえてたんだな。俺達の会話。

「心の友が、こんなに頭を悩ませて大変な思いしてるっつーのに…。おめーらの血は何色だ…!?」

あぁ。頭悩ませてたのか。知らなかったわ。

そりゃ悪かったな。

構ってちゃんアピールしてんのかと思った。

「生憎、白目剥いてるだけで、何に悩んでるのか分からなかったからな」

「え、マジ?ってことは、悩みの理由が分かったら、星見の兄さんは助けてくれる気あんの?」

「?あるけど…」

何に悩んでるのか分かってたら、助けるよ。

ゲーム機もらった恩もあるからな。

「俺に出来ることがあるなら、何でもしてやるよ」

「マジかよ。何?そのイケメンみたいな台詞。かっこい…!」

…何言ってんの?

なんか余裕そうだし、やっぱり放っといて良い?

「言っとくけど、勉強に関することは手伝えないからな。自分で勉強しろよ」

「ちげーよ。そうじゃなくて…もうすぐだろ?アレ」

…アレ?

って、何の話?

「ほら、文化祭だよ。文化祭!」

と、言われてから気づいた。

…そういや、そろそろそんな時期だっけ。

「…なんか問題でもあるのか?文化祭に…」

「どうやら忘れてるようだな、星見の兄さん。良いか、自分はな…文化祭実行委員なんだよ」

雛堂、真顔だった。

…そういやそうだっけ。これも忘れてた。

春に委員決めしたとき、俺は園芸委員、雛堂は文化祭実行委員だったっけ…。

普段は全く仕事がないけど、文化祭の時期だけは死ぬほど酷使させられると聞いている。

そうか。そろそろ…そんな時期になったんだな。

「放課後に文化祭実行委員会が開かれて、毎日駆り出されてんだよ。文化祭の出し物打の展示だの設営だの、もう何もかも盛りだくさんやらされんの!控えめに言って死にそう!」

とのこと。

そういえば昨日の放課後、雛堂が死んだ魚の目をしていたが。

あれはそういうことだったのか。

…大変そうだな。

「それは仕方ないんじゃないですか?この時期は忙しいかもしれませんけど、その代わり普段は全く仕事がないんですから」

乙無がズバリと言った。

ま、まぁ…それはそうなんだけど。

「けっ。運良くあみだくじで風紀委員とかいう当たり委員を引き当てた奴に、自分らの気持ちが分かってたまるかってんだ。なぁ、星見の兄さんよ!」

「うん…。まぁ、外れ委員に当たると、そうなるよな…」

俺も毎週、園芸委員の仕事の為に駆り出され。

夏の間は、朝まで花の世話をやらされたからな。

委員会活動が大変だっていう、その気持ちはよく分かる。

「もー無理。ギブ。死にそう。文化祭終わるまでに自分の魂が燃え尽きるっての!」

忙しいのはこの時期だけなんだから、それくらい頑張れよ、と。

乙無は冷ややかな目で見ていたが。

委員会活動の大変さは理解出来るし、そもそも文化祭はクラスが一眼となって取り組むものだし。

…ゲーム機の恩もあるし。

何より、雛堂がここまで困ってるのに、「勝手に頑張れ」と突き放すことは、俺には出来なかった。
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