アンハッピー・ウエディング〜後編〜
女装男装コンテストなんて、漫画かゲームの世界のイベントだと思ってたよ。

この間寿々花お嬢さんがやってた乙女ゲーム、ときメロの文化祭でも行われていた。

イケメンの女装シーンを見て、内心草を生やしていたものだが。

まさか、自分達もリアルで経験することになるとは。

人を笑っちゃいけないなぁと思いました。例えゲームの世界だとしても。

このイベントは全校で行われ、各クラスから一人ずつ、コンテストに出場する選手を選ばなければならないそうだ。

ふーん、成程。

それってつまり、俺のクラスからも、女装させられる気の毒な生徒を一人選べ、ってことだろ?

これに関しては、穏やかではいられない。

だって、冷静に考えてみろよ。

女子部の生徒は良いだろうよ。いつものワンピースの制服を脱いで学ランに着替えれば、それだけで男装になる。

女性はスカートでもズボンでも、どっちを穿いても全然違和感はないけども。

男がスカートを穿いたら、その時点で変態じゃん。

不公平だよなぁ。女性はボーイッシュな格好をしても許されるのに、男が女モノの服を着たら変態呼ばわり。

つまり何が言いたいのかというと、女性が男装することと、男性が女装することは等価ではないということだ。

しかし、この学校において「男女平等」を期待することは、悪魔や死神に慈悲を期待するようなもの。

全くの無意味というものである。

今に始まったことじゃねーもん。なぁ?

きっと女子部の生徒は、泣く泣く女装させられた哀れな男子生徒を見て、指差して笑ってんだろうなぁ。

ひでぇよ。

そして、何より恐ろしいのは。

これから俺と雛堂は、このイベントの生け贄にされる哀れなクラスメイトを一人、選出しなければならないことである。

…さて、誰がやる?

「…どうやって決めたら良いんだろう?」

「委員長は、各クラス立候補者を募って…とか言ってたけど」

「ふざけんなよ。居る訳ねーだろ立候補者なんて」

誰が好き好んで女装なんかするかよ。

ましてや、見世物にされる為に。

仮に女装したい奴がいたとしても、そんな秘めたる趣味を、わざわざクラスメイトに見せるはずがない。

そういうのは人目に付かないよう、こっそり楽しむ趣味だろ。

って、俺も何言ってんだよ。さっきから。

如何せん、会議室では「女装が」「男装が」と、日常生活ではおよそ使われる必要のない言葉が、当たり前のようにポンポン飛び交っていたから。

俺も、感覚がおかしくなってしているのかもしれない。ヤバい。

良識を見失わない俺でいてくれ。

「だよなぁ…。このまま、立候補者がいなかったら…」

「…うちのクラスだけ不参加、って訳にはいかないよな?」

「そりゃ無理だろ」

…ですよねー。

意地でも一人、クラスのうちの誰かが女装しなければならない。

こんな恐ろしい苦行があるかよ?

「誰も立候補者がいなかったら、仕方ない。そこはもう…厳正なくじ引きで決めるしかないだろ」

「…そうだな…」

このような決め方で生け贄を選ぶのは、大変心苦しいが。

うちのクラスだけ不参加って訳にはいかないんだから、いかなる方法を使っても、出場者を決めなければならない。

それに、決定しなければならないことは、女装コンテストの生け贄だけではないのだ。
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