アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「まずはー…合唱発表会やりたい人ー」

雛堂が挙手を求めても、誰一人手を上げない。

そりゃそうだろ。

合唱なら、女子部に合唱部がある。

当日は、講堂の大ホールで合唱部の発表会が予定されている。

何が嬉しくて、わざわざ旧校舎の狭い教室までやって来て。

野郎共の下手くそな野太い歌声なんて、聞かなきゃいけないんだ。

苦行でしかない。

それに、発表会を開くとなったら、当日までに何度も練習しないといけないし。

誰もやりたくないだろう。そんなこと。

「合唱発表会は…ゼロ、と。…じゃあ次に、絵本の朗読会やりたい人ー」

再び、雛堂が挙手を求めるも。

やはり、手を上げる者はいない。

そりゃそうだろ。 

大人でさえ、わざわざ長い上り坂を上って、旧校舎に足を運ぶとは考えにくいのに。

小さい子供が、絵本の読み聞かせの為に旧校舎まで歩いてくるとは思えない。

大体、新校舎では、巨大迷路やスタンプラリー、ヨーヨー釣りや輪投げなど、子供が好きそうな出し物がたくさん行われている。

絵本の朗読会なんて、さして珍しい訳でもないし。

それに、絵本の朗読係は誰がやるんだ?

文化祭の日に、絵本なんか読んで、小さい子供の世話をするなんてお断りだ。

「絵本の朗読会もナシ…か。じゃあ三つ目の…人形劇をやりたい人ー」

挙手するクラスメイト、ゼロ。

案の定だったな。

そりゃそうだろ。

人形劇なんて、絵本の朗読会よりもっと幼稚臭くて、しかも準備が面倒だ。

当日までに何度も練習をしないといけないし。

何が嬉しくて、良い歳した野郎共が、人形片手にお遊戯しなきゃならないんだ。

気持ちは分かるよ。俺だって、家で寿々花さんにおままごと遊びに付き合わされたからな。

高校生にもなって、あれをやるには、まず恥とプライドを投げ捨てなければならない。

誰もやりたくないっての。そんなこと。

でも、俺としては非常に困る。

誰かやってくれよ。人形劇。絵本の朗読会でも良いから。

この際合唱発表会でも良いから。誰かやりたいって言ってくれ。

さもないと、このままじゃ四つ目の選択肢に、

「じゃあ最後、『星見食堂』をやりたい人ー」

雛堂がクラスメイトに向かって、挙手を求めると。

伸びる伸びる。クラスメイトの手が上に向かって、続々と。

さっきまでの沈黙は何だったんだ、って言いたいほど。

満場一致とはこの事。

…そりゃ、そうなるだろ。

合唱会も嫌だ、絵本朗読会も嫌だ、人形劇も嫌なら。

だったらもう、四つ目の選択肢しか残ってない。

消去法で、残るのは四つ目だけなんだから。

食べ物系の出し物なら、当日までに練習をする必要もないしな。 

食材の準備と、テーブルと椅子を並べるくらいで支度は済む。

あとは、当日料理を作ってお客さんに提供するだけ。

…料理を作らされるの、俺だけどな。

こうなることは分かりきっていた。昨日の時点で。

そりゃこの四つしか選択肢がなかったら、どう考えても『星見食堂』が選ばれるだろうよ。

「そんじゃー満場一致で、うちのクラスは『星見食堂』を開店するってことで。けってーい」

…けってーい、じゃないんだよ。

雛堂、俺あんたのこと手伝うって、昨日言ったけどさ。

あれ、やっぱり撤回させてもらって良い?
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