アンハッピー・ウエディング〜後編〜
ホームルームの後。

「おい雛堂。コラ」

「お、悠理兄さん。『星見食堂』開店決定、おめでとう」

殴るぞ。

「な、ん、で、俺がそんなことしなきゃいけないんだよ…!?」

言っとくけどな、俺は「やる」なんて一言も言ってないぞ。

全部勝手に決めやがって。そりゃあんたが文化祭実行委員なんだから、決定権はあるけども。

しかし、俺にだって拒否権があると思わないか?

「って言われても…多数決で決まったんだから。これは民意ってもんだよ」

民意だと?

「クラスメイト全員に選んでもらえたんだぞ?名誉じゃないか。信頼されてるんだよ兄さんは」

上手いこと言って、俺をおだてようとしても無駄だぞ。

俺は騙されないからな。

「面倒事や厄介事は、他人に擦り付ける…。狡っ辛い人間の性ですね。社会の縮図を見たような気分でしたよ」

と、乙無。

全くだ。

クラスメイトは何も、俺を信頼しているから『星見食堂』を選んだんじゃない。

俺に押し付けておけば、自分達が楽を出来るから選んだだけだ。

貧乏くじを押し付けやがってよ…!

「大丈夫、大丈夫だって悠理兄さん」

「何が大丈夫なんだよ?」

何も大丈夫じゃねぇよ。

「店の名前が『星見食堂』だからって、悠理兄さん一人に押し付けるつもりはないから」

「…」

「調理の指導はしてもらうと思うけど、勿論補助はつけるし、他のクラスメイトにもそれぞれ手伝ってもらうつもりだよ。分業だよ、分業」

…分業ね。

本当にそうなるのだろうか。

「悠理兄さんは、厨房で偉そうに指示してくれるだけで良いんだよ。お会計とかオーダーとか皿洗いは、他の皆で分担するからさ」

「…本当だろうな?」

「大丈夫、大丈夫。そもそも、そうしないと企画書が通んないよ」

あ、そうか…。

「分担を決めた以上、無責任に自分の仕事を放り出すような真似はさせないよ」

「…」

「な、頼む。協力してくれ。うちのクラスでまともに料理が出来る人なんて、悠理兄さんくらいしかいないだろうし。人助け、いや雛堂助けだと思って」

…雛堂助け、ね。

あんた、人を説得すんの上手いな。

そんな風に拝まれちゃ…「ふざけんな誰がやるか」と突き放すことも出来ないじゃないか。

「…仕方ない。分かったよ」

俺も、腹を括るしかないってことだな。
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