アンハッピー・ウエディング〜後編〜
その日の昼休みに、早速俺と雛堂と乙無の三人で、『星見食堂』の企画書を制作。

その日のうちに、企画書を委員会に提出した。

細かい箇所は手直しさせられるだろうが、多分このまま通るだろう。

メニューをどうするのか、価格設定や食材の準備、当日の係決めについては後日決めるとして…。

その前に、もう一つ決めなければならないことがあるのを、覚えているな?

…そう、女装・男装コンテストの出場者である。

誰もが緊張と不安を抱えながら、帰りのホームルームの時間がやって来た。

「…えー…ごほん。それじゃあ、女装・男装コンテストの出場者を決めようと思います」

教卓の前に立つ雛堂も、さすがに緊張の面持ち。

今朝、クラスの出し物を決めるときは、あんなにゆるゆる〜っとした雰囲気だったのにな。

今はクラス中に、張り詰めたような緊張感が広がっている。

人間、女装が懸かってたらこんなに真剣になるんだなーって。

「…立候補者は…いませんか?」

真剣な眼差しで、雛堂がクラスメイトに問い掛けた。

クラスメイト達も、負けないくらい真剣な表情で教室を見渡した。

今ここで手を上げる者がいたら、そいつは勇者になれるぞ。

勇者にはなれるけど、一生モノの黒歴史を抱えることにもなるな。

…仮にそういう趣味があったとしても、皆の前ではやらんだろ。

もしそんな奴がいたら、俺は今日からそいつと距離を置くわ。

「…立候補者はいないようだな…」

案の定、クラスメイトは誰一人手を上げなかった。

そりゃそうだろ。

今日だけで何度「そりゃそうだろ」と思ったことか。

誰が好き好んで、恥を晒すような真似をするものか。

こればかりは、誰に頼まれても拝まれても嫌だ。

今、クラスメイトが何を考えているか、手に取るように分かる。

皆同じ気持ちだ。

「頼むから、誰か。自分以外の誰かがやってくれ」ってな。

自分以外なら誰でも良いよ。

でも、そんなこと言ってちゃ一生決まらないから。

「…だったら、仕方ない…。どうしてもクラスに一人ずつ出場してもらわないといけないんで。…あみだくじで決めます」

クラスメイトの間に、更なる緊張が走った。

…やはり、そうなるか。

まぁ、そうするしかないよな。

春の委員決めだって、そうだったじゃん。

結局は、あみだくじや、じゃんけんで決めなければならない。

自分の運に頼るしかないってことか…。

運…運なぁ…。

俺、運には自信がないんだよな。

無月院家の分家として生まれてしまった時点で、俺に人並みの運なんて皆無だよ。

「あみだくじの紙を回すんで、一人ずつ名前を書いてってください…。…勿論、自分も参加します」

文化祭実行委員である雛堂も、生け贄候補からは逃げられない。

…勿論、『星見食堂』の店主となる俺も、例外ではない。

このクラスの一員である限り、必ず運命のくじ引きに参加させられるということだ。
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