アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「はー…。終わった終わった」

シャープペンシルを机に置いて、俺は安堵の溜め息をついた。

長かったよ。

でも、やり遂げたからな。セーフ。

「?…何が終わったの?」

俺の傍で、おままごとセットを出して遊んでいた寿々花さんが、きょとんと首を傾げた。

よくぞ聞いてくれた。

「宿題だよ」

「宿題…?」

「そう、夏休みの宿題」

「宿題…」

何でそんなに反応薄いんだ、と思ったが。

そういや、女子部の生徒は夏休みの宿題なんてないんだっけ。

夏休みは、海外旅行や避暑地の別荘で過ごす生徒が多いからって。

全く、羨ましい話だよ。

「問題集やプリントの宿題は、さっさと終わらせたんだけどさ…。読書感想文と小論文っていう、面倒臭い奴が残ってたんだよ」

あと、英文読解な。

これらが面倒臭くて、ついつい後回しにしてしまってたんだよ。

本当は、もっと早くやるつもりだったんだぞ。

円城寺が寿々花さんをオペラに連れ出した日な。あの日に終わらせるつもりだったのに。

円城寺にムカついて、それどころじゃなくなって。

結局また後回しにして、今日に至る。

そろそろ、マジでやらなきゃいけないと思って。

今日、朝から机に向かって…何とか終わらせた。

やれやれ。

これで、夏休みの宿題全部終わり。

始める前はうんざりした気分だったけど、こうしてやり遂げると、達成感が半端じゃない。

「宿題頑張ったんだ?悠理君、偉いねー」

小さい子にするみたいに、寿々花さんは俺の頭をよしよし、と撫でてきた。

そりゃどうも。

「寿々花さんのクラスは、やっぱり今年も宿題はないのか?」

「え?うん」

良いなぁ。羨ましい。

夏休み、満喫し放題じゃん。

「夏期講習ならあるけど、それは希望者だけだし…」

とのこと。

夏期講習ね。学校でそんなの開かれてんの?

男子部の生徒には、全くお声がかからなかったんだけど?

「寿々花さんは、夏期講習行かなかったのか」

「うん」

まぁ、寿々花さんは夏期講習なんて受けなくても。

学年一、いや、学校一の成績を誇ってるからな。

「だって、飛行機乗りたくなかったから」

…飛行機?

夏期講習と飛行機と、何の関係があるんだ?

「…何処でやるんだ?その夏期講習」

「オーストラリア。聖青薔薇学園の姉妹校があるの」

それ、夏期講習じゃなくて短期留学じゃね?

国内でやれ。つーか学内でやれよ。

男子部に全くお声がかからない訳だよ。

「夏期講習をわざわざ海外で…。さすがお嬢様…」

たかが夏休みの補習授業だけで、オーストラリアまで行ってたまるか。

それなら俺は、自宅のリビングのテーブルで、冷たい麦茶でも飲みながら英文読解やってる方がマシだよ。
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