アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「コンテストの衣装。もう決めてるのか?」

「うーん。まだー」

おいおい。悠長だな。

「何を着るつもりなのか知らないけど…早いところ用意しておけよ。前日になったらバタバタして…」

「私ね、着てみたい服があるんだー」

とのこと。

着てみたい服…?それは珍しいな。

着るものに全く頓着しない寿々花さんが、自ら「着たい」と希望するなんて。

一体どんな衣装なんだろう。

「何?着てみたい服って」

「鎧と鉄かぶと」

…何処の戦国武将?

「小道具に太刀と刀を持って、格好良く抜刀術とか披露したい」

うきうきと夢を語ってくれてありがとう。

でも、それは無理だから。

現実を見ような。現実を。

「無理だろ。何処に売ってるんだよ。鎧なんか…」

「ないかな?悠理君、鎧持ってない?」

「持ってる訳がない」

どんな衣装持ちでも、鎧と鉄かぶとがクローゼットの中に入っている一般人はいねーよ。

コスプレじゃん。

「そっかー。…残念だなー」

残念なのかよ。

一体何に触発されたのか…。戦国武将にでも憧れてるのか?

まぁ、あれだよ。男の子なら人生で一度は、格好良く鎧を着て、猛然と戦う戦国武将に憧れたりするもんだろ?

それと同じだと思えば…。

…俺はなかったけどな。戦国武将への憧れは。

「それなら仕方ない…。…悠理君、悠理君の服貸してくれる?」

「え?」

「悠理君の持ってる男の子の服、着たい」

と、寿々花さんが頼んできた。

俺の服?

「別に良いけど…。そんな立派なもんじゃないぞ?」

それこそ、春に一緒に服を買いに行った、例のファッションセンターイマムラで買ったような安物ばっかり。

それに、もう何年も着てるから、大抵の服はくたびれてきてるし…。

「悠理君の服なら何でも良いよ」

とのこと。

何でも良いって言われてもな…。寿々花さんほどじゃないけど、俺も、それほど衣装持ちという訳でもなく…。

まぁ、良いか。服を貸すくらい、どうということはない。

「じゃあ、俺のタンスから好きなのを選んでくれ。どれでも良いぞ」

「わーい。タンス漁りだ〜」

漁るな。
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