アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…しっかし、夏期講習でオーストラリアかぁ…。

で、他の女子生徒達は、海外旅行に行って?

その他の生徒も、国内の別荘で優雅に過ごすのが当たり前なんだろ?

それは凄いと思うよ。スケールデカくて。

いかにも、金持ちの夏の過ごし方って感じ。

園芸委員長である小花衣美園(こはない みその)先輩も、海外に行くって言ってたもんな。

今頃、何処でどうしていることやら。

…しかし。

「…なぁ、寿々花さん。あんたはこれで良いのか?」

「ほぇ?」

ほぇ、じゃなくて。

「他のクラスメイトは、皆、旅行したりオーストラリア留学したりしてるんだろ?」

「うん」

「寿々花さんは、何もやらなくて良いのか?」

新学期になったら、クラスメイトは皆、旅行や留学の思い出話に花を咲かせるんだろうに。

現状、うちの寿々花お嬢さんには、皆に話せるような思い出がない。

海外行ってないし。別荘なんてないし。

周囲が楽しそうに、充実した夏休みの思い出を語っている中で。

寿々花さんだけ、話に加われずに気まずい思いをするようなことになったら…。

凄く気の毒。

「今からでも遅くないから、どっか海外に行くとか…」

寿々花さん、英語ペラペラだし。英語圏の国なら困らないだろ。

「海外…?別に興味無いけど…」

しかし、寿々花さんはいまいち乗り気ではない。

「悠理君が一緒なら、何処に行っても良いよ」

あ、そう…。

じゃあ今すぐ飛行機のチケット取って、一緒にアメリカ旅行にでも行こうか、と言いたいところだったが。

「無理だな。俺、パスポート持ってない」

生まれてこの方、国内から一歩も出たことがない引きこもりの俺が。

パスポートなんて、お洒落なものを持っているはずもなく。

今から申請していたら、夏終わるっての。

「じゃあ、良いや。悠理君とおうちで過ごす」

「いや…そうは言うけどな、このままじゃ夏休みの思い出が…」

寿々花さん一人だけ、話の輪に入れずに気まずい思いをしているところを想像したら。

いたたまれないと言うか、可哀想と言うか…。

胸が締め付けられるような気持ちになる。

それなのに、寿々花さんは全く気にしていなくて。

「夏休みの思い出?いっぱいあるよ」

むしろ嬉しそうに、寿々花さんはそう言った。

…何?

海外旅行にも、別荘にも留学にも行ってないのに?

「悠理君と花火大会して、りんご飴食べて、それから悠理君のお誕生日会をやって、ケーキを一緒に食べて」

「お、おぉ…」

「それからそれから、たこ焼きパーティーもやったでしょ?この間はお化け屋敷にも行ったよ。ね、思い出いっぱいだ」

…確かに、言われてみれば。

相当アグレッシブって言うか…。色々やったな、今年の夏休みは。
< 18 / 645 >

この作品をシェア

pagetop