アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「はい、上がり。これで5連勝〜」

「僕も上がりです」

「ぐぬぬ…」

また、俺の負け。

トランプ開始30分が経過し、俺の手元には見事、5回連続でジョーカーが残っていた。

何だ、このジョーカー。俺に愛着でもあるのか?

必ず、最終的に俺のもとにやって来やがる。

寿々花さん相手なら負け知らずだから、自分は結構トランプに強いと思っていたが。

上には上がいた。当然だけど。

つーか、寿々花さんに勝ったくらいで良い気になってた俺が間違いだった。

何せあの人、ポーカーフェイスってものが苦手らしく。

ジョーカーが自分の手元にあったら、露骨にジョーカーをガン見してるから。

それで分かるんだよな。

難易度で言うなら寿々花さんはイージー、雛堂と乙無はルナティックレベル。

俺が勝てるはずがない。

「あんたら…何でそんなに強いんだよ…?」

そりゃ俺が悪いよ。寿々花さん…イージー相手に連勝して天狗になってた俺が馬鹿。

でもだからって、俺だって、めちゃくちゃ弱いってことはないと思うんだけど?

雛堂と乙無が強過ぎる。

「あたぼうよ。何せ自分はちっちゃい頃から一人ぼっちで、一緒に遊んでくれる親も兄弟もいなかったからな。一人でずっとトランプ弄って遊んでたんだ。お陰で、今でもトランプなら負け知らずだぞ」

軽い気持ちで聞いたら、予想以上にヘビーな理由で反応に困る。

そういう重い話を、さらっと言うのはやめてくれ。

「真珠兄さんも、トランプで一人遊びしてたクチか?」

「いいえ?このような安っぽいカード遊び、邪神の眷属である僕にとっては児戯も同然。この僕が本気を出せば、トランプ遊びなんかで負けるはずはありませんが…」

「負けてんじゃん、雛堂に」

「勝ちを譲ってあげてるんですよ。人間相手に大人気ないことをしては、可哀想でしょう?」

などと、苦しい言い訳をしており。

それでも俺より強いんだから、乙無もすげーよ。

畜生…。さすがに5連敗は悔しいぞ…。

何としても、せめて一回くらいは勝ちたい。

「次だ、次。次は別のゲームを…大富豪とかやろうぜ」

「お、良いぜ。現実だと大貧民だけど、トランプの大富豪なら自分、超得意だからな」

さらっと重いこと言うのやめろって。

ババ抜きが駄目なんだ。ババ抜き以外なら、俺にも勝ち目があるかもしれない。

すると。

「…ねぇ、悠理さん。大也さん」

乙無が、真顔で俺と雛堂を見つめていた。

「何だよ?大富豪は苦手だから嫌だ、って言うんじゃないだろうな」

邪神の眷属を騙るなら、大富豪くらい受けて立てよ。

しかし、乙無が言いたいのはそういうことではなく。

「トランプに熱中するのも良いですけど、本業を忘れてませんよね?」

は?…本業?

本業って何…と、言いかけたが。

辺りに香る、芳ばしいスパイスの匂いで我に返った。

…そうだった。

今の俺達、カレー屋が本業なんだった。

あまりにも人が来なさ過ぎて、危うく本業トランプ職人になるところだった。
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