アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「しかしまた…何だってそんなにいきなり…?」

繰り返し言うが、俺達が新校舎に行く前は、あまりにお客さんが来なくて暇を持て余し。

ひたすら、暇潰しにトランプをやってたくらいなのに。

来てくれたお客さんと言えば、小花衣先輩とその従姉妹さんくらいで…。

…ん?小花衣先輩…?

「僕達も当然それは疑問だったんですけど…どうも聞いてみたところ、今朝、一番にやって来たお客さんが…」

「…小花衣先輩のことだよな?」

「そう、その人と、そのお連れ合いの方がいたでしょう?」

あぁ。勿論覚えてるよ。

制服貸してもらった仲だもんな。

で、その小花衣先輩がどうした?

「お連れ合いの方というのが、どうやらこの学院の姉妹校で、県内有数の超名門進学校の元生徒会長だったそうで」

「…」

「それだけじゃなくて、現在は大学生ながら、現役の人気服飾デザイナーとしても活躍している方だそうです」

…マジで?

そんな有名人から、制服借りてたの?俺。

「あ、あの人…そんなに凄い人だったのか…?」

道理で、女性客ばっかだと思ったよ。

それはあの従姉妹さんのお陰だったのか。

「うわ、本当だ!悠理兄さん、これ見ろよ」

スマホを片手に声を上げた雛堂が、俺にスマホを手渡してきた。

どうやら、小花衣先輩の従姉妹さんのSNSのようだ。

そこには、俺達の店のカレーの写真がデカデカと掲載され。

『とっても美味しいカレーでした♪』と感想が載ってきた。

これか。全ての元凶は。これだな?

冗談交じりに、宣伝しといてください、とは言ったけど。

まさか、SNSで宣伝するとは。そこまでしてくれとは言ってないぞ。

そ、そういうことだったのか…。

そんな有名人に宣伝されたんなら、あれだけ客が急増したのも納得である。

「何が凄いって、そんな有名人の舌を唸らせた悠理兄さんのカレーの腕前だよな。どんだけ美味いんだって話」

雛堂が真顔で言った。

盛り過ぎだよ。

ただ従姉妹(小花衣先輩)の知り合いに頼まれたから、宣伝してくれたってだけで…。

「そして同じくらい凄いのは、悠理兄さんがそんな有名人と知り合いだったってことだな」

「ましてや、その人の制服を借りてますからね。世界というものの狭さを実感します」

「おまけに悠理兄さん、無月院のお嬢さんとも知り合い…どころか、一緒に暮らしてる仲だもんな…。もしかして悠理兄さんって、雲の上の人だったりする?」

「心配しなくても、地に足つけて生きてるよ…」

俺は別に、ただの一般人、平民だよ。

ただ、寿々花さんが…「雇い主様」が、雲の上の人だってだけで。

まさか小花衣先輩の従姉妹さんが、女子高生の憧れの的だったとは…。

もっと早く教えてくれれば良かったのに、と思ったが。

事前に知ってたら、絶対緊張しまくって、まともに接客出来たとは思えないので。

やっぱり、事後報告で良かったと思った。
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