アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「まずは…やっぱり髪だよな。女の子なら、髪長くないとなー」

とか言って。

雛堂は、持参した紙袋からとんでもないものを取り出した。

紙袋の中から、ゾロリと長い髪の毛が出てきて、思わず一瞬ビビったが。

「な、何だそれ…!?」

「何って、ウィッグだよ、ウィッグ。カツラだな」

か…。

…雛堂、あんたなんてものを。

「はい、被って被って」

「ちょ、やめろって、馬鹿。何そんなもの持ってるんだよ…!?」

「え?家の中に転がってた」

そんなものが家の中に転がってるなんて、雛堂んちはどうなってんだよ。

まさか、雛堂本人が買った訳じゃないよな?

「中坊のチビが、去年のクリスマスに友達とプレゼント交換した時にもらった、ネタプレゼントだよ」

とのこと。

雛堂の持ち物じゃなくて、雛堂の兄弟の持ち物らしい。

ネタプレゼントって…。

「家に置いておいても、誰も使わないんだからさ。こんな時に有効活用しないとな〜」

「とか言いながら、俺の頭に被せようとするなよ…!」

カツラまで被るとは言ってないぞ、俺。

しかも、最悪なのはカツラではなく。

「真珠兄さん、例のものを」

「畏まりました」

こちらも、謎の紙袋を取り出す乙無。

おい、ちょっと待て。例のものって何だよ。

何をするつもりなんだ?これ以上、俺に恥の上塗りを、

あろうことか、乙無が取り出したのは。

「お、乙無!何だよそれ…!?」

「見ての通り、メイクグッズですよ。さぁ、化粧水から塗るので大人しく座っててくださいね」

馬鹿。一体何を考えてるんだ。

「メイクって…化粧させるつもりか…!?」

聞いてない。そこまでするなんて聞いてない。

ちょっと待てよ。女装なんて、女モノの服を着るだけで良いんじゃねぇの?

カツラとか化粧とか、そこまでする必要ある?

他の二人の出場者は、そこまでしてないじゃん。

俺だけ気合い入れまくってたら、マジでそういう趣味の人かと思われかねない。

セーラー服だけでも、充分恥晒しなのに。

カツラだの、化粧だのは絶対御免だ。

「やめろ。俺に変なものをつけようとするな!」

「ちょっと、動かないでくださいよ。今塗ってるんですから」

「塗るな!っつーか、そんなもの誰から借りてきたんだ…!?」

「借りてませんよ。これは自前です」

「!?」

あまりにびっくりして、俺はそのまま、時が止まったように固まってしまった。

その間に、俺が大人しくなったとばかりに、乙無はペタペタと俺の顔に、色んなものを塗りたくり始めた。

…妙に、慣れた手付きで。

…自前?自前って言ったよな?

なぁ、俺あみだくじに負けて、こうして女装コンテストの犠牲者に選ばれたけど。

もしかして俺じゃなくて、乙無を選んでいれば、万事解決していたのでは…?
< 210 / 645 >

この作品をシェア

pagetop