アンハッピー・ウエディング〜後編〜
俺が大人しくなったのを良いことに。

雛堂と乙無は、そりゃもうやりたい放題だった。

「よし、ウィッグよーし」

「折角なら、ヘアアレンジでもしますか」

「ヘアアレンジ?真珠兄さん、そんな器用なこと出来んの?」

「邪神の眷属たる僕にとっては、赤子の手を捻るようなものです。清楚系、姫系、ギャル系、どれにします?」

「ここは姫…いや、この学校なら清楚系の方がウケるだろ」

「分かりました。じゃ、ちょっと失礼して」

俺の背後に回った乙無は、器用にウィッグの髪を束ねて、ヘアゴムとリボンで結んだ。

非常に手慣れた手付き。

「こんなものですかね」

「おっ!似合うじゃ〜ん!折角だから、マニキュアとか塗ってやろうぜ」

「良いですよ。悠理さん、ちょっと爪借りますよ」

ペタペタ、と指に水色のマニキュアを塗りたくられた。

こちらも、やはりプロの手付き。

最後に。

「フローラル系のオーデコロンを吹いて…。はい、これで出来上がりです」

「お待たせー。どうだ?兄さん。姉さんに生まれ変わった気分は」

…人生で一番、死にたい気分だよ。

何してくれてんの?マジで。

よくも、取り返しのつかないことをしてくれたな。

「おぉー、めっちゃ似合う。めっちゃ女子!何処からどう見ても女子じゃん!」

「ふざけんなよ、雛堂。あんたの悪ノリのせいで、カツラまでつける羽目に…」

「いや、でも本当に似合いますよ。悠理さんは女顔だから、飾れば美人になるだろうと思ってましたが、まさかここまでとは」

乙無まで。ふざけたこと言いやがって。

褒めてくれてどうもありがとうございますね。全然嬉しくないけど。

つーか、こんなに化粧上手いんだったら、俺じゃなくて自分が出ろよ。

意味分かんねーよ。何で俺がこんな恥辱を味わわされなければならないのか。

「まぁまぁ、そんな怒るなって。マジで綺麗だからさ。ちょっと、鏡見てみろ」

はぁ?

鏡なんて見るかよ。そんなもの見たら、永遠のトラウマとして脳裏に焼き付けられることになるだろう。

しかし。

雛堂が、控え室に置いてあった小道具の姿見を、俺の前に持ってきた。

そのせいで、俺は嫌でも女装した自分の姿と対峙することになってしまった。

あぁ…見たくなかったのに。

姿見に映っていたのは、変わり果てた自分の姿だった。

…こんな憐れな姿に…。

「どうですか?…女子でしょう?」

「…まぁ、女子だけど…」

それは認めざるを得ない。

でもな、セーラー服着て、化粧してカツラまで被って。

マニキュア塗って、香水まで振り掛けられたら。

そりゃ、女子みたいな姿にもなるだろうよ。

「ちょっと着飾っただけで、この完成度…!これはもう、優勝間違い無しだな!女装部門だけじゃなくて、総合部門でも優勝狙えるんじゃね?」

と、鼻息荒い雛堂。

冗談だろ。優勝なんて目指してねーよ。

何事も一番になるのは名誉なことだが、女装コンテストで一番になることほど、何の名誉もない優勝があるだろうか。

最下位で良い。むしろ最下位を目指したい。

「大丈夫です、悠理さん。今のあなたは何処からどう見ても女子です」

「うるせー、馬鹿」

「喋らなければ完璧だな」

殴るぞ。

「おどおどしてたら、余計恥ずかしいですよ。自信を持ってステージに立ってください」

「…持てる訳ないだろ、自信なんて…」

こんな格好で人様の前に立つなんて、申し訳なくて、ご先祖様に顔向け出来ないよ。
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