アンハッピー・ウエディング〜後編〜
いっそこの後、突然空から槍でも振ってきて文化祭中止にならねーかな、なんて。

そんな儚い望みが、天に通じるはずもなく。

素晴らしい晴天のもと、午後のメインイベント、女装・男装コンテストの時間がやって来た。

死刑執行を待つ、囚人になった気分。

とうとう来てしまったか…。運命の瞬間が…。

こうなったらもう、嫌なことはさっさと終わらせよう。

そして家に帰って、今日一日の記憶を完全消去しよう。

そうするしかない。それが一番だ。

早く終わってくれ、もう。頼むから。

「頑張れよ、悠理兄さん。客席から見てるからな!」

「健闘を祈ります」

うるせぇ。

いよいよ、出場順が近づき。

控え室で、雛堂と乙無の二人と別れ、俺は重い足取りで舞台袖に向かった。

心臓、バックバク言ってるんだが。

あぁ…。回れ右して家までダッシュで逃げ帰りたい…。

いや待て。逃げ帰るにしても、この格好じゃ無理だ。

なんてことだ。逃げるという選択肢さえ、俺には残されていないのか…。

さながら死んだ魚の目で、舞台袖に向かうと。

そこには。

「…?あれ?もしかして悠理君?」

「…え…?」

幻聴が聞こえたのか、と思った。

しかし、幻聴ではなかった。

「え…?えっと、あんた…寿々花さん、だよな?」

「うん、そうだよー」

その、聞き覚えのある呑気な声。やっぱり寿々花さんだ。

ただし、今日の寿々花さんは、いつもの寿々花さんとかけ離れた格好をしていた。
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