アンハッピー・ウエディング〜後編〜
さっきメイドカフェで会った時、寿々花さんはメイド服姿でうろちょろしていた。

しかし今は、そのメイド服を脱ぎ。

やけに見覚えのある学ランを着てるなぁと思ったが、そういや、あれ俺が貸したんだった。

何で寿々花さんがこんなところに…と、一瞬考えたが。

そうだ。寿々花さんも女装・男装コンテストに出場するって言ってたな。

すっかり忘れてたよ。

自分のことだけで、頭いっぱいだったもんだから。

寿々花さんの出場順、俺と近かったんだな…。それで、舞台袖で鉢合わせすることになったのだ。

…ふーん…。

我ながら不躾だが、俺は目の前の男装した寿々花さんの姿を、頭のてっぺんから爪先まで、じろじろと眺めた。

成程…。…結構似合うな。

さっきのメイド服姿とは、また違った味が出てると言うか…。

…って、何言ってんだ俺は。

「どうかな?悠理君。似合う?」

またしても、俺の前でくるりと一回転して見せてくれた。

はいはい。

「あぁ。まぁ…似合うんじゃねぇの?」

少なくとも、去年までそれを着ていた俺より似合ってるよ。

顔がさ。元々寿々花さん、黙ってたら顔だけはめちゃくちゃ良いから。

美人は何を着ても美人だってことだな。

「本当?ありがとう」

「ただ…さすがに、ちょっと大きいな」

学ランの袖は、寿々花さんの手のひらの真ん中辺りまで伸びているし。

全体的に、ダポッとした感じ。

中学生用の制服とはいえ、男モノだからな。仕方ない。

「悠理君って、こんなに大きかったんだねー」

「去年のだけどな、それ…」

「それに、この服悠理君の匂いがする。くんくん…」

「嗅ぐな」

学ランの袖に顔を埋めようとするな。

それ、俺の匂いじゃねーよ、多分。ずっとタンスにしまっといたから、タンスの匂いだ。

「…それにしても、悠理君」

「あ?」

「すっごくよく似合うね。女の子がいるのかと思っちゃった」

「…」

…忘れてた。

俺も今、寿々花さんが男装しているのと同じように、女装してるんだった。

変わり果てた婚約者の姿を見て、寿々花さんは今何を思うのだろう。

こんな情けない格好をする男、こちらから願い下げだ…と、婚約破棄されても文句は言えない。

…ところだったが。

「悠理君は凄いね。何を着ても似合って。何処からどう見ても女の子だよ」

むしろ寿々花さんは、目をキラキラさせて俺を見ていた。

…うん、ありがとうな。褒めてくれてるのは分かるんだけど。

全ッ然嬉しくない。

「可愛いねー」

「…そりゃどうも…」

「いっそその服、もう私服にしちゃっても良いと思う」

「…冗談じゃねーよ…」

真面目な顔して、何言ってんだ?

セーラー服は私服にはならない…っつーか。

金輪際、人生で二度とスカートなんか穿くものか。神に誓って。
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