アンハッピー・ウエディング〜後編〜
目が点になったまま、控え室に戻ると。

「いやー、まさか決勝戦に出られるとは!やるねぇ、悠理兄さん。決勝進出おめでとう」

「他の2名の男子生徒に比べて、群を抜いて似合ってましたもんね。当然と言えば当然ですが」

「唯一の旧校舎代表として、決勝でも活躍してくれよ」

ポン、と肩に置かれた雛堂の手を、俺はすぐさま振り払った。

活躍してくれよ、じゃねーよ。

冗談じゃない。

「ちょっと待てよ。決勝戦って何だよ!?」

「あれ?予選で選ばれた5人が決勝戦やるって、言ってなかったっけ?」

「聞いてねーよ、初耳だよ!」

そういうことは事前に言ってくれよ。職務怠慢だぞ、文化祭実行委員。

「ごめんごめん。まぁそういうことだから、引き続き決勝戦も頑張ってくれ」

テヘペロ、みたいなノリで頼んできやがった。

ふざけんじゃねーぞ。そんなの聞いてない。

あんたら、それを分かってて、わざとカツラを被せたり化粧をさせたりして、女装の完成度を上げたんじゃないだろうな?

俺に更なる恥辱を味わわせるつもりで?

そろそろ悪意を感じ始めたぞ。

良いようにハメられた気分だ。

大体…。

「衣装替えって言われたけど、どうするんだ?俺、他に衣装なんて持ってないぞ」

予選と同じ衣装で良いのだろうか?

決勝戦があるなんて聞いてないから、当然衣装なんて一着しか用意してなかった。

当たり前だよ。何が嬉しくて、こんな不名誉決定戦の為に、二着も三着も女モノの衣装を用意しなきゃならんのだ。

「確かに、それが問題だよな…。悠理兄さん、いや悠理姉さんがここまで才能あると思ってなかったから、決勝戦の衣装が用意出来てねーや」

と、雛堂。

誰に何の才能があるって?

今のは聞かなかったことにしておくよ。

しかし、これはチャンスなのでは?

まさかの、衣装が用意出来ないので決勝戦辞退、有り得る?

決勝は一時間後だって言ってたし、今から衣装を買いに行く時間もないし。

このまま決勝戦を棄権して、

しかし。

運命の女神(笑)は、俺を見放しはしなかった。

「悠理くーん。いるー?」

「うわっ、びっくりした」

男子生徒用の控え室に、俺の学ラン姿の寿々花さんが、ノックも無しに入ってきた。

あんた、ここはうちじゃないんだからな。いきなり男の部屋に入ってくるんじゃない。

「あ、良かった。悠理君いたー」

「な、何の用だよ…?」

「あのね、悠理君に制服貸してもらおうと思って」

…え?

「制服なら、もう貸してんじゃん。今着てる学ラン…」

「これじゃなくて、今の学校の制服。朝悠理君が着ていったやつ」

え?今の?

聖青薔薇学園の制服のこと?

「な、何で?」

「決勝戦の衣装がないの。決勝戦に出られるなんて思ってなかったから」

…俺と一緒じゃん。

成程、それで俺の制服を借りたいと…。

そこまでして出る必要、あるか?

この際、一緒に棄権しようぜ。衣装持ってきてない組で。

まぁ…寿々花さんには、その気はなさそうだけど。
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