アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「奇遇だな…。実は俺も決勝戦の衣装がなくてな…」

「え、そうなの?」

「折角だから、このまま棄権しようと思ってたところだ」

「え、棄権するの?」

…そんなびっくりしなくても良いじゃん。

俺、変なこと言ってる?

「折角決勝戦に進めたのに、ここで諦めるの?そんなに簡単に諦めちゃうような人だったの…?」

「ぐっ…」

何?その心を抉る感じ。

まるで、俺が腰抜けみたいじゃん。

ラスボス前に敵前逃亡してるみたいじゃん。

「おいおい。女の子にここまで言わせて、まさか棄権…なんてことはしねぇよなぁ?」

にやにや、と迫ってくる雛堂。

こ、こいつ…。分かってて言ってやがる。

いや、待て。でも。

「出ようと思っても、衣装がないだろ?俺が寿々花さんに制服を貸すことは出来るけど、俺が寿々花さんの制服を着るのは無理だよ、いくらなんでも。サイズが違う」

服のサイズっていうのは、大き過ぎるなら、袖口を折るなり何なりして、何とかして着られるが。

小さ過ぎるのは、どうにもならないからな。

無理矢理着て、破いてしまったら洒落にならないし。

決勝戦に出たくても、衣装がないんじゃどうにも…。

「女の子の服だったら、悠理君が着られそうな衣装があるよ」

と、寿々花さんがケロッとして言った。

何だと?

その助け舟は不要だぞ。今回ばかりは。

「俺が着られそうな衣装…って?」

「良かったじゃん、悠理兄さん。無月院の姉さんに借りようぜ」

渡りに船とばかりに、雛堂が言った。

「いや、でもどんな衣装なのか…」

「大丈夫ですよ。どんな衣装でも合うように、メイクとヘアアレンジしてあげますから」

さっきから乙無は、何でそんな無駄な特技があるんだよ。

あんたが女装コンテストに出れば良かったじゃん。

「寿々花さん。衣装って何のことなんだ?何処にそんな…」

「私のクラスにいっぱいあるよ。たくさん借りてあるから。…メイド服」

「…」

…なぁ。

…俺、前世でなんか、とんでもない悪いことでもしたか?
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