アンハッピー・ウエディング〜後編〜
いきなり「これとこれ買ってこい」と言っても、多分無理だと思って。

失敗して自信を失ったら、また玄関先に蹲って落ち込むかもしれないだろ?

だから、まずは家の中で徹底的に練習。

寿々花さんの好きなおままごと感覚で、「これください。いくらですか?」「○円になります」みたいな。

さながら、お店屋さんごっこだな。

良い歳した男子高校生がやるには、少々気恥ずかしい訓練だった。

しかし、このお店屋さんごっこみたいな訓練が、寿々花さんは気に入ったようで。

自分から進んで、ノリノリで付き合ってくれた。

「それじゃあ次…。味噌と牛乳と醤油はどれだ?」

「えーっと…。これがお味噌で、これが牛乳で…それからお醤油はこれ」

おぉ、スムーズに見分けられるようになってるな。

食材の数を増やしても、対応してきてる。

3日ほど毎日練習して、かなり出来るようになってきた。

寿々花さんが手に持ってるの、醤油じゃなくて焼きそばソースなんだけど。

それはまぁ、見なかったことにして。

「味噌が300円、牛乳が200円、ソース…じゃなくて、醤油が300円として、合わせていくらになる?」

「ん〜…。800円」

正解。

算数は分かるようになったな。

「じゃあ、払ってくれ。800円」

「うん。800…ってことは、100円玉が1枚、2枚…」

1枚ずつ、100円玉を数える寿々花さん。

「…7枚、8枚…9枚!はい、数えたよ」

数えた100円玉を、俺に手渡してきた。

…何で9枚?1枚多いんだけど。

まぁいっか。1枚足りないよりマシ。

「よし。なかなか出来るようになってきたじゃないか」

「本当?私、お使いちゃんと出来るかな?」

「あぁ。良い調子だと思うぞ」

「やったー」

やっぱり、本人がやる気満々っていうのが一番だよな。

宿題にせよ試験勉強にせよ、本人にやる気がなかったら、いくらダラダラと机に向かっても無駄だから。

「やりたくないなぁ」と思いながらいくら勉強しても、頭に入らないもんだよ。

その点、寿々花さんは無邪気なくらいやる気満々でさ。

そのお陰で、それはもうみるみる知識を蓄えていってるんだわ。

飽きっぽいように見えて、全然「飽きた」とか、「もうやめる」とか言わないしな。

こういうところ、寿々花さんの長所だと思うよ。素直に。

凄く真剣に頑張ってくれるから、俺としても教え甲斐がある。

…よし。これなら。

「そろそろ、本番に挑戦してみても良いかもな」

「…!本番?お使いに行くの?」

「あぁ。どうだ?」

家の中での訓練は、もう充分だろう。

そろそろ、実践の場に移るべきかと思うのだが…。

「不安だけど…でも、私頑張る」

よし、よく言った。

さすがうちの寿々花さん。

な?素直で良い奴だろ?
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