アンハッピー・ウエディング〜後編〜
俺が、心を無にしている間にも。

刻一刻と、時は過ぎていき。

気づいた時には。

「準グランプリに選ばれたのは…エントリーナンバー9番、星見悠理さんです。おめでとうございまーす!」

司会者さんが笑顔でそう言い、俺の前にやって来て。

「どうぞ。準優勝おめでとうございます」

「ど…どうも…?」

ろくに返事もしないままに、司会者さんに立派な賞状と、小さなトロフィーを受け取った。

…何これ?

準グランプリ…?

「悠理君。おめでとー」

観客席からも、俺の隣の寿々花さんからも、割れんばかりの拍手喝采。

俺、人生でこんなに人に拍手されたの初めてかも。

同時に、人生でこんなに拍手されて嬉しくないことも初めてかも。

「それでは、いよいよグランプリの発表をしたいと思います。5名のファイナリストのうち、映えあるグランプリに選ばれたのは…」

誰でも良いわ。

どんぐりの背比べみたいなもんだろ。

…と、思ったけど。

「エントリーナンバー8番、無月院寿々花さんです!」

グランプリに選ばれたのは、誰あろう、俺の隣で俺の制服を着た、寿々花さんであった。

「わーい。悠理君、私一番だって。ワンツーフィニッシュだね」

マジかよ。

寿々花さんが優勝?グランプリ?

で、俺が準優勝?

何?この不名誉ワンツーフィニッシュ。

ビリとブービー賞を二人で総舐めしたみたいな。

「おめでとうございまーす!」

「ありがとー」

寿々花さんは司会者から、賞状と、俺のより一周りも二周りも大きなトロフィーをもらっていた。

「それでは皆さん、今一度、二人の受賞者に大きな拍手をお願いしまーす!」

わー、パチパチパチ。

…はい。

「参加してくださった全ての出場者の皆さんも、お疲れ様でした。宜しければ、来年も奮ってご参加ください」

もう二度と嫌に決まってんだろ。

来年は乙無を推薦しよう。

「それでは、これで第○回、女装・男装コンテストを終了致します。ありがとうございましたー」

会場を包み込む、大きな拍手に見送られ。

こうして、ようやく俺の受難の時が終わった。

…なぁ。

俺、もう帰って良いか?
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