アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…女装・男装コンテストが終わった後。

俺は寿々花さんから制服を返してもらって、ようやく自分の服に着替えられた。

カツラを脱ぎ捨て、顔を洗いまくって化粧を落とした。

黒歴史を洗い流すかのように、ゴシゴシと。

ついでに、俺にとってはもう、二度と見たくないセーラー服とメイド服も。

すぐに持ち主に返却して、全てをなかったことにしたかった。

が、そうもいかない。

一応借り物なんだから、クリーニングして返すのが礼儀ってもんだろ。

仕方ないから紙袋に畳んで入れて、これは持って帰らなければ。

あー、疲れた。

なんかもう、どっと疲れたよ。俺は。

「いやぁ、さすが悠理兄さん。今年一番輝いてたなー」

「もう少し時間をかけて手を加えられたら、優勝も夢じゃなかったんですけどね」

「まぁ良いじゃん。優勝したのは無月院の姉さんなんだから。夫婦で受賞なんて、あんたらやるねぇ」

雛堂と乙無から、何やら屈辱的な褒め言葉を賜っている気がするが。

疲れすぎて、もう怒る気もなれない。

はいはいそーだねー。はいはい。

…畜生。

「来年こそリベンジだな!」

ふざけんな。何で来年も出る前提なんだよ。

二度と出るか。

「今日は悠理さん、午前も午後も大活躍でしたね」

「全然嬉しくねぇ…。何でこんな目に遭わなきゃいけないのかって、ずっと考えてるよ」

「そうですか。僕も遥か太古の昔…そう、僕がまだ人間であった頃…何度も同じように考えたものです」

今も人間だろうが。何言ってんの?

あぁ、もうツッコむ気にもなれない。

「逃れようのない非情な運命…その運命に抗う意志が、僕を邪神イングレア様の大いなるお力に、強く惹きつけたんです」

「そうか…。いっそ、俺も邪神教に入信しようかな…」

「この世のあらゆる不平等、不条理を正す真の神…。それこそ、我らがイングレア様なのです」

ふーん。どうでも良いけど。

好きに言ってろ。構ってる暇はない。

「早速、今日は打ち上げ…と言いたいところだけど、後片付けも忙しいしなー。今日は無理だな」

「まず、俺の体力が持たないよ…」

あまりにも、怒涛のように一日が過ぎて。

俺はもう、ぐったりと疲れ果てていた。

家に帰るのも面倒臭い。このまま学校に泊まろうかな…。

「教室の後片付けは、自分とクラスメイト達でやるから。悠理兄さんは先に帰って良いぞ」

と、雛堂から願ってもない申し出。

「良いのか…?皆後片付けに協力するのに…」

「悠理兄さんはシェフだし、それに女装コンテストの生け贄に捧げられたこと、クラス中が同情してるからな。後片付けくらいすっぽかしても、誰も文句なんて言わねーだろ」

そうか。それはどうも。

来年は絶対、俺以外の誰かを犠牲にしてやるからな。覚えてろ。

ようやく、文化祭の一日の行程が全て終了し。

俺は、雛堂と乙無を置いて、先に家に帰った。
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