アンハッピー・ウエディング〜後編〜
と、思ったが。

ハロウィンにうつつを抜かしているのは、我が家の寿々花お嬢さんだけではなかった。




「見てこれ、悠理兄さん。自分の今日の昼飯〜♪」

「うわっ…。でかっ…」

「面白いだろー?」

昼休み、いつも通り雛堂と乙無の三人で机を囲んでいると。

雛堂が、本日の昼食…いつもの菓子パン…をカバンから出して披露した。

菓子パンはいつも通りだが、今日はいつもと違う。

大抵毎日、スーパーで買った2〜3個の菓子パンがデフォルトなんだけど。

今日は、パン一個だけだ。

しかし、その一個の大きさが尋常じゃなかった。

巨大なコッペパンの上に、ケチャップ?ピザソース?みたいな、赤いソースがべったりと塗られ。

その上に、大きな黒いクモのような模様がチョコレートで描かれていた。

見た目のインパクトが強烈。

でっかいクモがいるのかと思ったよ。チョコレートだった。

「すげーな…。そんなのあるのか…?」

「ハロウィン限定の、満腹真っ黒パンだってさ。昨日、スーパーで見つけてさ〜」

へぇ…そんなのあったのか。

ハロウィン限定…か。何処でも似たようなことやってんだな。

昨日買い物行った時、パンコーナーも見てみれば良かったな。

まさか、こんな強烈な面白い商品が売ってるとは。

寿々花さんに買って帰ったら、大興奮だったろうに。

「面白くてさ。割引シール貼ってなくて600円もしたんだけど、我慢出来ずに買っちゃった」

600円もするのか、それ。結構高いんだな。

でも、菓子パン三個分くらいだと考えたら、そんなもんか。

そのハロウィンパン一個だけで、普通の菓子パン三個分以上のボリュームがありそうだもん。

「面白いのは良いですけど…。そんなに大きかったら、食べてる途中で飽きるのでは?」

と、眉をひそめる乙無。

確かに。それ、中身何か入ってんの?

何も入ってないただのコッペパンだとしたら、食べるのキツそうだな。

しかし。

「大丈夫、大丈夫。色んなもんがは言ってるってさ。チョコクリームとパンプキンペーストとあんこと、デスソースが入ってるんだって」

「成程。それなら飽きなそうですね」

へぇ。一応、中身入ってるんだ。

しかも、色んな種類。山賊おにぎりみたいだな。

山賊おにぎりならぬ…山賊パン、みたいな?それはそれで美味しそう。

…ん?デスソース…?

「ってな訳で、いただきまーす!」

「あ、雛堂…」

止める間もなく、雛堂はガブッと勢いよく、ハロウィンパンに齧り付いた…。

途端に。

「どうですか?ハロウィン特製菓子パンの味は」

「うんうん。辛くてめっちゃうま、…辛ーっ!?」

突然、雛堂は口から火を噴かんばかりに大声をあげた。

「辛い!辛い辛い辛い!お口の中か炎に包まれる!からぁ〜っ!」

雛堂がのた打ち回っているのを、他のクラスメイトも白い目で見ていた。

あーあ…。言わんこっちゃない…。

「…馬鹿だな」

「馬鹿ですね」

冷めた目で雛堂を見ながら、俺と乙無は同じことを呟いた。

…とりあえず。

危険そうだから、これ、寿々花さんに買うのはやめよう。
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