アンハッピー・ウエディング〜後編〜
口直しとばかりに、持参したお弁当を食べたけど。

まだ、口の中がヒリヒリする。感覚がない。

デスソース恐るべし。

そして、そのデスソースよりも恐ろしいのは…デスソースを口にしたにも関わらず、平然としている乙無である。

よく食えたな、こんなもん。人間の食べ物じゃねーよ。

デスソース好きな人ごめんな。でも俺は無理。

「デスソースのところはアレだけど、他の部分は普通にうめーな」

と言って、雛堂は残りのハロウィンパンに齧り付いていた。

全ての元凶だぞ、そのパン。

ろくでもない商品を発売しやがって…。デスソースはやり過ぎだろ、どう考えても。

ミートソースとかにしてくれたら、完璧だった。

「呑気しやがって…。俺の舌を破壊しておいて」

「まぁまぁ、そんな怒んなって」

「怒るわ」

どうしてくれんだよ。今日のお弁当の唐揚げ、いつもとちょっと味を変えた力作だったのにさ。

全然味分かんなかった。勿体無い。

「分かった、分かったって。このお詫びに、今度のハロウィンではお菓子いっぱい持ってくるから」

と、雛堂が両手を合わせ、詫びるように言った。

…ハロウィンだと?

どいつもこいつも…ハロウィンなんて子供のイベントに、うつつを抜かし過ぎではないのか。

「大也さん、あなた高校生にもなってハロウィンなんかやるんですか」

ジト目の乙無。

「良いじゃん、別に。何歳になってもハロウィンは楽しいぜ。この時期限定の色んな種類のお菓子が売っててさ」

その「この時期限定」に踊らされて、デスソース入りのパンを買ってきたアホは誰だったかな。

もう忘れたのか。

「なぁ。悠理兄さんとこの、無月院の姉さんとか」

「あ?寿々花さんが何?」

「ハロウィン、楽しみにしてんじゃねぇの?」

…それは。

思い出す。昨日、嬉しそうにハロウィンの替え歌を歌っていた寿々花さんを。

「よく分かったな…。うんまい棒を大量買いするって言ってたよ」

「だよなー。分かる分かる。うちのチビ共も、友達とハロウィンパーティーするって騒いでたわ」

あぁ、成程。雛堂の家の弟達が…。

ハロウィンパーティーねぇ。何するんだ?ハロウィンパーティー。

「折角だから、今年は自分らもハロウィンパーティーやらね?」

名案、とばかりに雛堂が提案した。

…あんたって人は。すーぐまたそういうことを言い出す…。

「何度も言わせないでください。僕は忙しいんですよ。邪神の眷属として、罪の器を満たすべく…」

「勿論、乙無の兄さんが大好きな、甘々のスイーツも用意するからさ」

「…一考の価値はありますね」

乙無。スイーツに釣られてんじゃねぇ。

しかも。

「きっと、我らのシェフ悠理兄さんが、美味しいハロウィンのケーキを作ってくれるよ」

「成程。それは美味しそうですね」

…は?
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