アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「はい、これお使いメモな。ここに書いてあるものを買ってきてくれ」

「うん、分かったー」

俺は寿々花さんに、買ってきて欲しい物を書いたお使いメモと。

クレジットカードはない、現金しか入ってない財布を渡した。

「大丈夫か?俺、ついていった方が良いか?」

「大丈夫だよ」

「本当に?本当に大丈夫か?」

「…本当は、ちょっと不安だけど」

やっぱり?

俺も不安だよ。

小さい子に、初めての留守番任せるようなもの。

でも、留守番はちゃんと出来たんだから。

お使いも、きっとやってくれると信じたい。

「…一緒についていこうか?」

「ううん。一人でも大丈夫だよ」

…そうか。

ちょっと不安だけど、でも頑張ってみると。

そのチャレンジ精神は、高く評価したい。

こうなったら、俺も腹を括って寿々花さんを信用するしかないな。

「さっき渡したメモ、ちゃんと持ってるか?なくすんじゃないぞ」

「うん」

「良いか。それ今夜のカレーの材料だからな。間違って買ってきたらそれがカレーになるから。くれぐれも買ってくるものを間違えないでくれよ」

「うん」

「あと、これエコバッグな。買ったものはこれに入れて持って帰るんだぞ」

「…悠理君、何だかお母さんみたいだね」

茶化すんじゃねぇ。俺は真面目なんだよ。

でも、子供を初めてのお使いに送り出す母親って…こんな気分なんだろうなぁ。

覚えてないけど、俺も初めてのお使いに行ったとき、母さんはこんな気持ちだったのだろうか。

「もし何か困ったり、やっぱり無理って思ったら、すぐ戻ってくるんだぞ」

「うん、分かったー」

…えらく軽いノリで返事してるが。

…やっぱり不安。

「じゃあ行ってくるねー」

俺の不安をよそに、寿々花さんはひらひらと手を振って玄関から出ていった。

…。

…一人、取り残される俺。
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