アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「ハロウィンやる。ハロウィンしたい。ハロウィンやろー」

断るどころか、予想以上の食い付き。

そうか…。そんなにハロウィンに憧れてるのか。

分かったよ。それなら…。

「じゃあ、雛堂にそう言っておくよ。うちでハロウィンパーティーな」

「わーい。やったー」

両手を上げて万歳する寿々花さん。

つまり、今回も一肌脱げってことだな。俺が。

しかし…ハロウィンのケーキってどんなんだ…?

そもそも、俺はお菓子作りは苦手なんだが…。…買ってきた物じゃ駄目なのか?

まぁ、あれだ。考えておくよ。

「あのね、ハロウィンのお菓子ね。うんまい棒いっぱい買ったんだー。昨日届いたんだよ」

「あ、そう…」

「うんとこしょ、どっこいしょ…ほら、いっぱい」

「多っ…!」

寿々花さんは、わざわざ空き部屋から段ボール箱を引き摺って見せてくれた。

超巨大な段ボール箱に、ぎっしりと詰められたうんまい棒。

どう見ても業者の仕入れだよ。個人で買う量じゃない。

これ…何本あるんだ…?

一本10円のうんまい棒だが、これだけ買ったら、相当お高いものになるのでは?

いくらお金に困ってないとはいえ…。

「これ…何でこんなに大量に買ったんだ…?」

好きだっけ?そんなに。うんまい棒。

「悠理君にいっぱいあげようと思って」

と、キラキラした目で言われた。

俺の為なんだ。そりゃどうもありがとうございますね。

でも、俺こんなにうんまい棒もらっても困るから。

「もう二人来るんだったら、追加であと二箱くらい発注して…」

「しなくて良いっつーの。駄菓子屋かようちは」

しかも、うんまい棒限定。

すぐ飽きるよ。多分、5本目くらいで。

いや待て。味が違うなら…。

「はい、悠理君にあげるー」

と言って、早速うんまい棒を差し出してきた。

はえーよ。まだハロウィンじゃないじゃん。

まぁいっか。もらっておこう。

俺、今口の中の感覚がないからさ。

お菓子でも食べて、舌を復活させたい。

うんまい棒は…色んな味あるけど、俺はコンポタ味が一番好きかな…。

しかし。

寿々花さんが手渡してきたうんまい棒を、袋開けて齧ってみたところ。

どうやら、コンポタ味ではない模様。

サラダ味…とかでもない?

それよりもっと甘い…気がする。

今、口の中の感覚がないから、いまいち味がよく分からないけど…。

「…何味なんだ?これ」

「えっとね、かぼちゃさつまいも味」

出た。あれかよ。本当に買ったのか。

口の中に広がる甘さは、かぼちゃとさつまいもの味だったか。

「もっと違うの…コンポタ味とかないのか?」

俺、あれが一番好きなんだけど。

しかし、寿々花さんにそのような配慮を期待する方が間違いだった。

「?ないよ。全部同じ味だもん」

…マジで?

「これ、全部…もしかして、ここにあるうんまい棒、全部…かぼちゃさつまいも味なのか?」

「うん、そうだよー」

「…」

思わず、食べかけのうんまい棒を床に落とすところだった。

物事には限度があるということを、どうやらこのお嬢様は知らないらしい。
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