アンハッピー・ウエディング〜後編〜
しかし、ここで予想外の事態が発生する。

というのも、その日の帰り道。

俺は、珍しく学校の図書室に寄って帰った。

聖青薔薇学園の図書室は新校舎にあるので、わざわざ放課後に新校舎まで歩いていったんだよ。

図書室が新校舎にあるせいで、旧校舎の男子生徒が図書室を利用することは、普段は滅多にない。

そりゃそうだろ。

図書室にいるのは当然、女子生徒ばかりで。

男が入ったら、物珍しそうにチラチラ見られて、とても落ち着いて勉強するどころじゃない。

お陰で、俺も今年入学してから図書室を利用したのは、数えるほどしかない。

しかも、その数回も、授業でどうしても必要な課題が出たからである。

自主的に図書室を利用するのは、今日が初めてかもな。

しかし、恥を忍んで学校の図書室に足を運んだのは正解だった。

さすが、国内有数のお嬢様学校。

学校の図書室と言うより…図書館だな。

県立図書館くらいあるんじゃねぇの?ってくらい、凄い数の本だ。

これなら、俺のお目当ての本もあるかも。

お目当ての本って何なのかって?

料理の本だよ。それも、ハロウィンレシピの本。

ケーキ作ってくれって、雛堂に(一方的に)頼まれたからな。

ネットで調べても良いけど、やはり紙のレシピの方が見やすいし。写真とかたくさん載ってるし。

色々見比べてみたかったから、わざわざ本を借りに来た訳だ。

図書室の料理コーナーに行くと、そこにもぎっしりと、たくさんの料理本が並んでいた。

すげー…。圧巻の品揃え。ならぬ本揃え。

実に心を惹かれる本がたくさんある。

そこの「レンジで簡単おかず」とか…。あ、そっちにある「毎日のお弁当作り」っていう本も良いな。

「もう迷わない献立集」だって。あれもアリだな。

レパートリー増えそう。献立のマンネリ解消にうってつけ。

…って、違う、そうじゃない。

俺は、ハロウィン料理の本を借りに来たんだよ。目的を忘れるな。

これだけたくさん本があるんだから、ハロウィンレシピの本くらい、何冊かあるだろう。

「えーと…ハロウィンのレシピは…」

と、棚を隅々まで眺めていると。

「…あら?悠理さん?」

「え?」

突然、聞き覚えのある声に名前を呼ばれて、俺は反射的に振り向いた。

すると、そこには。

「こんなところで会うなんて、奇遇ね」

にっこりと微笑む、小花衣先輩であった。

「ど、どうも…」

思わず挙動不審になりながら、俺は軽く会釈した。

珍しいな。…この人が、中庭や花壇の場所にいるなんて。

「本を借りに来たの?」

「はい…ちょっと。あの…小花衣先輩も?」

「えぇ。新しいガーデニングの本が入ったと聞いたから、借りに来たの」

と言って、小花衣先輩は借りたばかりの本を見せてくれた。

『オールドローズ全集』とか、『美しいヨーロッパの花々』とか、いかにもお洒落なタイトルの本である。

俺だったら、多分10ページも読まずにギブアップしそうだな。

さすが小花衣先輩…。どんな時でも、お嬢様してんなぁ…。

「悠理さんはどんな本を見ていたの?…あら」

「え、あの。それはえっと…」 

小花衣先輩は、俺が眺めている本棚の一角を見上げた。

「成程、お料理の本ね。この間の文化祭で食べたカレー、本当に美味しかったもの」

…その節は。

どうも、ありがとうございました…。
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