アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「やっぱり、お料理が得意なのね。羨ましいわ」

「いや、そんな…」

「男性の方でお料理がお好きなんて、珍しいわね。…あ、でも悠理さんは、女性の格好もよく似合っていたし、それで…」

「勝手に納得しないでください。最近は…そう、男でも料理するのって普通ですから…!」

俺に特殊な趣味性癖がある訳じゃないから。普通だから俺。ノーマル。ノンケ。

それなのに。

「そうよね、ふふふ。大丈夫よ、分かってるから」

にこにこ、と答える小花衣先輩。

絶対分かってない。間違いなく何も分かってない。

心底酷い誤解をしているのは言うまでもない。

全力で否定したい。俺の名誉の為にも。

しかし、ここは図書室。

声を荒らげる訳にはいかないし、長話はご法度である。

畜生…。俺の名誉が穢されていく…。俺の名誉が…。

「…実は、ハロウィンのレシピを探してるんですけど…」

全てを諦めた俺は、話題を変えるようにそう言った。

もういっそ忘れてくれないかな。文化祭の日のこと。

ちなみに、あの日にもらった、不名誉極まりない賞状とトロフィー。

叩き壊してやろうか、それともちり紙にして使ってやろうかと思っていたのに。

寿々花さんの手によって、いつの間にか立派な額縁に入れて、誇らしげに玄関に飾られていた。

こんなものを玄関に飾られては、来客がある度に、俺は大恥をかくことになる。

必死に拝み込んで、渋々ながら、リビングに移してもらえた。

畜生。

「ハロウィンのレシピ?」

「はい…。寿々花さ…いや、家族と友人を招いて、ハロウィンパーティーを開くことになって…」

「まぁ、楽しそうね。旅行の日程と被っていなかったら、是非私もお呼ばれしたいところだったわ」

…ん?旅行?

小花衣先輩、また旅行にでも行くのか?

「ハロウィンのレシピだったら、こっちじゃないかしら」

と、小花衣先輩はカウンターの近くを指差した。

え?

「でも、料理コーナーはここじゃ…」

「季節の本は、いつもカウンター前の特設コーナーに紹介されているの。ハロウィンコーナーもあったと思うわ」

マジで?

それは良いことを聞いた。

小花衣先輩の案内で、カウンター前の特設コーナーに向かうと。

確かにそこには、ハロウィン特集コーナーがあって。

俺の求めている、ハロウィンレシピの本も何冊か紹介されていた。

おぉ、凄い。小花衣先輩の言う通り。

「ありがとうございます。助かりました…」

「いいえ、良いのよ。お目当ての本が見つかって良かったわ」

俺一人だったら、未だに常設の料理コーナーを探して、「無いなぁ…」と溜め息をついていたに違いない。

成程、話題の本とか、時期の本に関しては、特設コーナーに並べられてるんだな。

お陰で助かった。

ハロウィンレシピの本と、それから…。

…やっぱり気になるから、さっき見つけたお弁当作りの本も、一緒に借りていこう。
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