アンハッピー・ウエディング〜後編〜
小花衣先輩の案内のお陰で、無事に本を借り。

俺は、それを持って帰宅した。

…問題が起こったのは、その時だった。

「ただいまー、寿々花さん。遅くなって悪っ…うわっ」

「…」

帰宅して、玄関に足を一歩踏み入れてから、俺はびくっとして立ち止まった。

…出た。恒例のアレ。

そういや、しばらくなかったな。

寿々花さんが、玄関に蹲ってずーんと落ち込んでいらっしゃった。

…。

落ち込むのは良いんだけどさ。何で玄関なんだ?

帰ってきた瞬間びっくりするから、落ち込むなら自分の部屋か、リビングで落ち込んでくれよ。

何処で落ち込んでいようと、ちゃんと相手してやるからさ。

「…寿々花さん、ちょっと、寿々花さん」

「…」

返事無し。

分かったから。落ち込んでるのは分かったから。とりあえず部屋に上がってくれないか。

向こうで話聞くから。

「今日は何に落ち込んでるんだ…?」

「…はろうぃん…」

「は?」

今、蚊の鳴くようなちっちゃい声で何か言った?

…ハロウィン?

「…ハロウィンがどうしたよ?あんなに楽しみにしてたじゃないか。ハロウィンパーティー」

「…」

「何を落ち込むようなことがあるんだ?ハロウィンパーティーの準備なら、順調に進んでるぞ」

雛堂も、仮装の衣装借りたんだーとか言ってたし。

乙無の方も、邪神の眷属(笑)のプライドにかけて、立派なジャックオーランタンを用意するとか言ってたし…。

別に立派なのじゃなくても、普通のジャックオーランタンで良いぞ。

それに俺も、今日こうして、図書室で本を借りてきて。

ハロウィンパーティー当日に備えて、順調に準備を進めている。

何もかも順調に事が進んでいるのに、何を落ち込むようなことが、

「…」

「…えっ…」

顔を上げた寿々花さんの両目から、ポタッ、と涙の雫が流れて。

俺は、思わず動転してしまった。
< 236 / 645 >

この作品をシェア

pagetop