アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…って、それは良いんだが。

さっきから、寿々花さんの言い方がどうにも引っ掛かる。

修学旅行って、そんないくつもの選択肢から選ぶものじゃねーだろ。

個人旅行じゃないんだから。

否が応でも、学校が決めた行き先に行くしかない。

あ、待てよ?

「投票制だったのか?いくつか行き先の候補があって、そこからクラスメイト皆で投票して、一位になったのがイタリアだった…とか?」

非常に民主的な決め方だな。

しっかし、行き先の候補がどれも豪華だな。

フランスに、イタリアに、ドイツとイギリスだって?

他にどんな候補が出たんだろう。…やっぱりハワイとか?

ヨーロッパばっかりだからな…。英語圏に行きたい生徒もいたのでは?

しかし。

「ふぇ?投票…?」

寿々花さんは、こてん、と首を傾げていた。

…え?投票で決まったんじゃねぇの?

「何で投票するの?」

「え、だって…。修学旅行の行き先、やけに候補がいっぱいあるんだなって…」

「うん。4コースあるよ。イタリアコースと、フランスコースと、イギリスコースとドイツコース」

そんな、どっかのレストランのディナーみたいに。

「4つのコースの中から、好きなところを選べるの。一番人気はフランスコースだったかな」

「…」

「…?どうしたの?悠理君」

ごめん。…今、我ながら凄く間抜けな顔をしている自覚がある。

…嘘だろ?

コース制を採用している修学旅行は、そう珍しくないと思うんだよ。

俺も中学の時の修学旅行、最終日はコース選択制だった。

確か、大学のオープンキャンパスを見に行くコース、どっかの企業の社会見学に行くコース、美術館を見に行くコースの三つから選んだ。

しかし、さすが聖青薔薇学園女子部の修学旅行。

まさか、修学旅行の行き先が選択制だなんて。

しかも、イタリアフランスイギリスドイツ…という、超豪華ラインナップ。

何処を選んでも、リッチなヨーロッパ旅行って感じ。

何でわざわざコースに分ける必要があるんだよ。皆で同じところに行けよ。

「すげー…。金持ち学校の修学旅行は違うな…」

「?普通じゃないの?」

全く普通じゃないと思うぞ。

駄目だ。周りをお嬢様に囲まれて、感覚がおかしくなってる。

でも…そうだな、お嬢様揃いの聖青薔薇学園女子部じゃ、ヨーロッパ旅行くらいは普通の感覚なんだよな。

小花衣先輩も、ちょっと遠出しました感覚で、植物園を見に海外旅行行ってきた、とか言ってたもんな…。

お嬢様達にとっては、ちょっとした遠足と同じような感覚なのかも…。

ってことは来年の今頃、俺達も同じように…。

…なんてことは絶対有り得ないから、安心して良い。

女子部と男子部の格差は、もう嫌と言うほど身に沁みて分かっているからな。

女子部の生徒がヨーロッパ修学旅行に行ってる間、俺達男子部の生徒は多分。

精々、隣県に日帰り観光旅行が良いところだろう。

はー、考えるだけで悲惨。

別に良いけどな。

旅費の積み立てのことを考えたら、そんなヨーロッパ旅行なんて豪華な修学旅行には行きたくない。

近場で充分だよ。畜生。
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