アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「そうか…。イタリアに行くのか、寿々花さん…」

「うん。ハロウィン前の金曜日から、次の週の金曜日まで」

丸々一週間修学旅行って、マジ?

「旅行の日程表を見たら…。日本に帰ってくるのは土曜日の午前…だから、おうちに帰ってくるのはもっと遅くなるかも…」

「…あ、そう…。まぁ、何時になっても良いよ。起きて待ってるから…」

一週間も家にいないのか、寿々花さん…。

…なんか、何とも言えない奇妙な感覚。

これまでずっと毎日、休みなく寿々花さんの面倒を見ていたから…。

それが、俺の役目だと思っていたから。

突然一週間も休暇を与えられて、意表を突かれた気分だ。

まぁ、良いか。精々のんびりしよう。

「一週間も一人で、悠理君大丈夫?」

何であんたが俺の心配をしてんの?

逆だろ。俺はむしろ、寿々花さんの方が大丈夫か心配だよ。

「あんたこそ、旅先で変なもの食べるなよ」

日本じゃないんだからな。口に入れるものは、例え水でも、注意しておかないと酷い目に遭うって聞いたぞ。

寿々花さんは俺より遥かに旅慣れてるんだろうから、大丈夫だと思うけど。

「あと、迷子になるなよ?集団行動を守れ、集団行動を」

「うん、頑張るー」

本当だろうな?

この人、すーぐぽやんとして明後日の方向に歩き出しかねないから…。

まぁ大丈夫か。引率の先生が何人もついてるんだろうし。

例えはぐれて迷子になったとしても、イタリア語喋れるって言ってたし。

言葉さえ通じるなら、無事に帰ってこられるだろう。…多分。

さすがに、俺は助けに行ってやれないからな。行ってやりたいのは山々だけど…。

自分で何とかしてもらうしかない。今回ばかりは。

「お土産、お土産買ってくるからね。悠理君」

「お、おぉ…」

「悠理君、お土産は何が良い?」

って聞かれても、俺、イタリア土産なんて全然…。

何が有名なんだ?…チーズとか?

「何でも良いよ、別に…任せる」

「うん、分かったー」

「…言っとくけど、インスタントラーメンは買ってこなくて良いからな?」

「…」

何故無言になる。

またインスタントラーメン買ってくるつもりだったのか。そうなのか?

イタリア産のインスタントラーメン…。どんな味なんだろうとは思うけど。

外国産のインスタントラーメンの地雷率の高さは、『ブルーローズ・ドリーム号』のお土産で嫌と言うほど思い知らされた。

もう二度と、異臭騒ぎは御免である。

違うもの買ってきてくれ。違うものを。

たまには、インスタントラーメン以外のお土産を頼むよ。

「まぁ、この際お土産のことはどうでも良いから…。元気に行って、元気に帰ってこい。それが一番のお土産だよ」

「うん、ありがとー」

「で、帰ってきたらハロウィンパーティーしよう。な?」

「うん…!」

よし、笑顔が戻ったな。良かった。

じゃあ明日にでも、雛堂達にハロウィンパーティーの延期を頼むかな。
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