アンハッピー・ウエディング〜後編〜
翌日、俺は早速雛堂と乙無に、事情を説明した。

「へぇー、修学旅行?そりゃ仕方ねぇわ。延期しようぜ」

「ハロウィンパーティーはハロウィン当日に行わなければならない、という法律はありませんしね。良いですよ」

良かった。二人共快諾。

大丈夫だろうとは思ってたけど、あっさり延期してくれて、安心したよ。

「悪いな…。一生懸命準備してくれてたのに」

「良いってことよ。ズレるっつっても一週間くらいだろ?全然許容範囲だって」

「それにしても、修学旅行を忘れるとは…。うっかりどころの騒ぎじゃないですね」

全くだよ、乙無。

寿々花さんにそう言ってやってくれ。本当呑気なんだから。

昨日、あの後、俺が急かしてようやくスーツケースを引っ張り出していた。

俺が何も言わなかったら、前日の夜…どころか。

当日の朝に準備してんじゃねぇの。おっそ。

置いていかれても知らんぞ。飛行機は待ってくれないんだからな。

「良いなぁ、イタリア旅行かー…。羨ましっ…」

と、頬杖をついて言う雛堂。

憧れるよな。ヨーロッパ旅行。

人生で一回、行けるかどうかってところだよ。

「ピザとかパスタ食いまくるのかな?」

「さぁ…。そういうことはないだろ、別に…」

逆に考えてみろよ。外国人が日本に来たら、滞在中ずっと寿司ばっか食ってると思うか?

そりゃ、寿司目当てに来た旅行客なら、そういう人もいるかもしれないけど。

普通は、色々食べてみたいって思うもんだろ?

「ま、自分、イタリア語なんて全く喋れないから無理だけどな!何ならパスポートも持ってねーよ」

「大丈夫だ。俺も持ってないから」

「イタリア語ってどんなの?グーテンターク!ってか?」

それ、ドイツ語じゃね?

「海外旅行くらいで、何をそんなに大騒ぎしているのか分かりませんね。地球なんて狭いものなんですから、同じ空の下にいる限り、どの国だって近所ですよ」

やれやれ、と溜め息混じりの乙無。

それ、格好つけてるつもりなのかもしれないけど。

人生で一度も海外旅行に行ったことのない、負け犬の遠吠えにしか聞こえんぞ。

所詮俺達男子部の生徒は、この学校では負け犬みたいなもんだよ。

「無月院の姉さんがいなかったら、悠理兄さん、寂しくなるな」

…は?

突然雛堂にそう言われて、俺はびっくりしてしまった。

…いきなり何を。

「一週間は結構長いぞ。家に誰もいなかったら寂しいだろ」 

「寿々花さんって、確か携帯電話の類をお持ちでないんですよね。メールや電話で連絡することも出来ませんからね」

乙無まで。

いやいや…別にそんなこと。

「むしろ俺は、良い息抜きになると思ってるくらいだけど?」

「そんなこと言って、多分三日目くらいには、『寿々花さん、どうしてるかな…』とか言ってるぞ。この兄さんは」

何だと?

「甘いですね、大也さん。僕は二日目だと思います」

乙無も何を言ってんだ。

あんたら…何を勝手なことを。

「じゃ、賭けようぜ。何日で悠理兄さんが寂しがり始めるか」

「何なら、当日の夜に既に寂しがってそうですけどね」

「…あんたら…」

好き勝手なこと言ってろよ。

寿々花さんがいないなら、俺は家の中で自由だからな。

思いっきり、寂しがる暇もなく、一人の自由を満喫してやる。
< 242 / 645 >

この作品をシェア

pagetop