アンハッピー・ウエディング〜後編〜
イタリア旅行に行く寿々花さんを、玄関で見送った30分後。

俺もいつも通り家を出て、学校に向かった。

俺が学校に着いた時にはもう、空港行きのバスは出発していたようだ。

ってことは今頃寿々花さん、空港に向かうバスの中にいるんだな。

飛行機が発つのは、昼前だって言ってたっけ…。

それから飛行機に乗って、半日以上もかけて行くんだって。

半日だってよ。飛行機に半日。

一時間でも長いなぁと思うのに、半日も乗ってたら背中痛くなりそうじゃないか?

あ、でもファーストクラスだから、座席は快適なのか…。

ファーストクラスってどんな感じなんだろう。

機内食とか、めっちゃ豪華でお洒落なんだろうな…。

飛行機の中って、色んな映画とかテレビ番組が観られるんだろ?

まさかあの人、飛行機の中でもホラー映画観てたりして…。

他の乗客がびっくりするから、ホラー映画は適度にしろよ。

大体、これから楽しい旅行が始まるっていうのに、ホラー映画を観てるんじゃあ、

「…見ろよ、悠理兄さん。早速放心してるぞ」

「早かったですね。やはり、賭けは僕の勝ちですか?」

自分の席に座って長考している俺を見て、雛堂と乙無が呟いた。

その声で、俺は我に返った。

はっ、俺は何を。

「な、何だ?授業中だろ、今」

普通に喋ってんじゃねぇよ。まだ授業ちゅ、

「授業なんか、とっくに終わってんよ。もう昼休みだ」

…え、マジ?

まさかと思って時計を見上げると、とっくに昼休みに突入していた。

…い、いつの間に?

「…チャイム、鳴った?」

「鳴ってましたよ」

「チャイム鳴ったのに、微動だにしてなかったからな。悠理兄さん」

ま、マジかよ。それならそうと言ってくれよ。

俺は、慌てて授業道具を片付けた。

「どうせ、今頃無月院の姉さんは…とか考えてたんだろ」

ぎくっ。

「べ、別に…そんなこと考えてねーよ。えっと…夕飯何にしようって考えてただけだ」

「チャイムが鳴ったことにさえ気づかないほど、真剣に晩飯の献立考えてたのか?」

「…そ…そうだよ…」

主婦は大変なんだよ。毎日の献立を考えることにな。

我ながら苦しい言い訳である。

「で、今日の晩飯何にすんの?」

「え?えっと…お、お茶漬け?」

「…そんだけ長考して、お茶漬けかよ」

良いじゃん、お茶漬け。美味しいし。

…鮭茶漬けにしよっかな。

あ、でも寿々花さんってお茶漬け好きなのかな?

たまには、あっさりしたお茶漬けを夕飯するのもい、

…って、何考えてんだ?俺。

今日、寿々花さんいないんだって。
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