アンハッピー・ウエディング〜後編〜
先に家を出た寿々花さんは、迷わずに歩けば、そろそろ近所のスーパーマーケットに辿り着く頃だろう。

猛暑の中、ダッシュでスーパーに向かう道を追いかけると。

「…いた」

俺が渡したエコバッグを、右に左に振りながら、軽やかな足取りで歩く寿々花さんの後ろ姿を発見。

どうやら、今のところ迷わずにスーパーに向かっていたようだな。

ちょっと安心した。

…が、まだ油断するには早い。早過ぎる。

俺はこっそり電柱の影に隠れて、寿々花さんの後ろ姿を見守った。

…あれ?俺、今もしかして不審者みたいになってる?

気の所為だ、気の所為。初めてのお使いを見守ってるだけだよ。

あれだけ心配していたにも関わらず、今のところ、寿々花さんは余裕たっぷりのようで。

「ふんふんふーん♪」

鼻歌を歌いながら、エコバッグを振って歩いていた。

振るなよ。つーか歌うな。

「ゆーりくんのご飯〜♪はおいしいね〜♪いっつもおいしい〜♪」

歩きながら、自作の歌を披露。

歌うほどの余裕があるのは良いことだが、恥ずかしいからやめろって。

「ゆーりくんは優しい〜♪いっつも優しい〜♪ね〜♪」

まさかの二番に突入。

大絶賛じゃないか。俺のこと。

…別の意味でも恥ずかしい…って言うか照れ臭いって言うか…。

「でもちょっと〜♪おばけに弱いよ〜♪」

放っとけ。

呑気に歌ってる場合かよ?

果たして、いつまでそんな風に余裕でいられるか…。

「…おっ、着いた…」

歌いながら、寿々花さんは無事にスーパーマーケットの入り口まで到着。

「よし、到着!」

無事に目的地に到着して、えへん、と胸を張る寿々花さん。

ドヤ顔なのは良いけど、まだ店に着いただけだからな。

買い物はこれからだから。まだドヤ顔になるのは早いぞ。

「えーっと、お店のかごと…それからコロコロを押していこう」

コロコロって、あんた…。

買い物カートだろ。

しかも寿々花さんは、普通の買い物カートではなく。

小さい子供が乗る、子連れ用の買い物カートを手に取った。

…何でそれ?

乗せる子供いないのに?

寿々花さんは全く気にせず、子連れ用買い物カートを押して買い物を開始した。

…あぁ、もう良い。細かいことは気にするな。

ようは、お使いをきちんと終わらせられれば、それで良いんだよ。

買い物カートを押して店内に入っていく寿々花さんを、俺は後ろからこっそり追いかけた。

…我ながら、マジで何やってんだろうな?

不審者と間違えられて、俺の方が店員さんに捕まりかねない。

が、今はそんなことは気にしていられなかった。
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