アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…さっさと寝よう、と思って、いつもより一時間以上も早くベッドに横になったのに。

実際に寝入ったのは、それから二時間以上も経ってからだった。

それまでずーっと、頭の中を占めるのは一つのことだけ。

今頃寿々花さんも、飛行機の中で寝てるのかなぁ、とか。

飛行機の中で夜を明かしたことなんて一度もないから、飛行機の夜ってどんな感じなのか分からないけど。

寝られんのかな?

寿々花さんは、割と何処でも誰の前でも、ぐーすか眠れるタイプだと思うけど…。

飛行機で寝たことはないけど、以前、何かの機会で夜行バスに乗った時のことを思い出した。

全然寝られなかったんだよな。

後ろの席のおっさんが、すげーイビキでさぁ。

うっせーなこのおっさん、黙って寝ろよ、と一晩中イライラしていたのを覚えている。

飛行機でもああいうことってあんのかな。

耳栓とか、イヤーマフとか、持っていった方が良かったのでは?

あ、でもそうか。寿々花さんが乗ってるのはファーストクラスだから、もっと快適に過ごしてるか。

他の乗客と一緒に、背もたれを倒してブランケットかけて雑魚寝…ってことはないだろう。多分。

…などということを、悶々と考えている自分に気づいてハッとして。

寿々花さんのことなんて、どうでも良いじゃん。あの人は今家にいない…どころか、日本にすらいないんだから。

折角寿々花さんのいない、静かでゆったりと過ごせる週末なのだ。

もっと一人を満喫しよう。と思い直して、軽く頭を振って、脳みそから寿々花さんを追い出そうとするのだが…。

…なんか、今夜妙に冷えるな。

先月まで、残暑のあまりぐったりしていたくらいなのに…。

最近めっきり朝晩が冷えるようになって、あっという間に冬が近づいている気がする。

日本でさえ、この寒さなのに…イタリアは大丈夫だろうか?

雨とか降らないかな。

ヨーロッパの気候って、全然分からないんだけど…。

大雨降ってたりしたら、折角の旅行が台無しだよな。

それどころか、飛行機が着陸するのも大変じゃないか?

向こうの天気って、今どんな感じなんだろう…と、気になり始めたら、確かめずはいられなくなって。

俺はベッドサイドのスマホに手を呼ばして、暗闇の中で「イタリア 天気」と検索。

おっと。良い子は暗闇の中でスマホなんて弄っちゃいけないぞ。俺との大切な約束だ。

「あ、良かった…。晴れだ…」

幸いなことに、イタリアの天気予報は来週いっぱい晴れらしかった。

予想気温も書いてあったけど、思っていたほど低くはない。

これなら大丈夫そうだな。良かった…。

…って、俺は何をやってるんだよ。

スマホを枕元に放って、俺は憤然としてまた横になった。

寿々花さんのことなんて考えない、ってさっき誓ったばかりなのに。

違う。俺は寿々花さんのことが気になったんじゃなくて、イタリアの気候を心配しただけだから。

と、心の中で言い訳を重ね。

再度、もう寿々花さんのことは考えないと心に決め。

5分後には、また寿々花さん関連の何かを考えている自分に気づき。

また心の中で言い訳を重ねる…ということを、ひたすら5セットは続け。

そうこうしているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。
< 251 / 645 >

この作品をシェア

pagetop