アンハッピー・ウエディング〜後編〜
結局俺はその日、何も出来なかった。

一日中ボーっとして、時間の無駄遣いをして過ごした。

何でって…やる気出なかったから。

今日は一人分で良いんだから、いつもより手の込んだ朝食を…と思ってキッチンに入っても。

…やっぱり、自分の一人の為に手の込んだ料理をするのが、凄く面倒に思えて。

納豆ご飯で良いや、と冷やご飯を温めて、納豆をかけて食べた。

昼食と夕食もそんな感じ。

折角だから、寿々花さんがいるときには食べられない、辛い料理や生野菜のサラダを作って食べよう、と。

意気込んで、キッチンに入るのは良いのだが。

冷蔵庫に手を伸ばして、ついいつもの癖で、二人分の食材を取り出してしまったことに気づき。

「違う、一人分で良いんだよ」と食材を冷蔵庫に戻すのに。

調味料を戸棚から出そうとした時も。

「あんまり辛くしたら、寿々花さんが食べられないかも」と思って、辛味調味料を取り出すのをやめて、戸棚を閉めてしまった。

そして思い出した。今日は寿々花さんがいないんだから、そんな風に気を遣う必要はないんだって。

何の為に辛い料理作ろうとしてんだよ、アホかと思い直す。

こんな下らないことを、何度も繰り返し。

結局、急激にやる気がなくなってしまった。

そのせいで、昼飯も晩飯も納豆ご飯になった。

納豆の備蓄が尽きたよ。畜生。

買い物にも行かなきゃいけないのに、一人分だったらそれほど食材使わないしな、と思って。

家から出るのも面倒。

ならば洗濯を、と思っても。

一人分の洗濯物の少なさに驚き、これなら明日、まとめて二日分洗濯すれば良いや、と。

洗濯物も、そのまま放置。

部屋の大掃除…も、するつもりだったのだが。

その頃には、もうすっかり家事に対する意欲をなくしてしまっていた。

どうせ寿々花さんは、明日も明後日も明明後日もいないんだから。

明日明後日明明後日にやれば良いじゃん。

そう思うと、何のやる気も出なかった。

ソファに座って、ボーっとして過ごした。

テレビをつけてみたけど、やっぱり馬鹿馬鹿しいバラエティ番組にムカつくし。

料理番組も観たけど、偶然その日のメニューは「きのこたっぷりソテー」で。

きのこ嫌いの寿々花さんに、こんなメニューを出したら発狂モノだろうな…。

そういやイタリアって、美味しい高級きのこが有名だけど。

寿々花さんは、あれ食べられるのかな…。ボルチーニだったかポルチーニだったか…。

…なんて、まーた懲りずに寿々花さんのことを考えている自分に気づいてハッとして。

余計なことを思い出させやがって、とテレビを切った。

料理番組に八つ当たりである。

こうなったらゲームでもしよう、と雛堂がくれたゲーム機を取り出してみたものの。

運悪く、その時ゲーム機本体に入っていたのは、例の恋愛シミュレーションゲーム「ときめきメロディアス」。

開幕、爽やかイケメンにイケメンボイスで「おはよう。今日も良い天気だねー」とか言われて。

無性に腹が立って、やっぱりそのままテレビを切った。

今日の俺、短気過ぎないか?

家事も駄目、買い物も駄目、テレビも駄目、ゲームも駄目と来たら。

もう他に何もやることなんてない。ただひたすら、ソファに座って無為な一日を過ごした。
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