アンハッピー・ウエディング〜後編〜
秋惜しむ頃の章3
さて、迎えた週明けの月曜日。

寿々花さんのいない平日の幕開けである。

コンビニで間違えて二人分買ってきてしまった反省を活かし、俺は策を講じた。

冷蔵庫の扉の部分に、「寿々花さんの分はナシ」と書いたメモ用紙を、マグネットで貼り付けておいた。

こうすれば、休日明けで寝ぼけ頭の月曜の朝でも、またいつもの癖で二人分の弁当を作ってしまうというミスを回避出来るのではないか。

いやいやまさか。さすがにこんなメモ必要ないだろう、我ながら大袈裟な、と半笑いで貼ったメモだったが。

月曜の朝、いつも通り弁当のおかず用に卵焼きを作ろうと、癖で卵を2個冷蔵庫から取り出した時。

例のメモが目に入って、しばし自分の書いた文字をじっと眺め。

そして、ハッとした。

そうだ。弁当は一人分で良いんだから、卵も1個で良いんだ。

慌てて、俺は卵を1個、冷蔵庫に戻した。

危ない、危ない。卵焼きを作り過ぎて、今日の弁当卵焼き弁当になるところだった。

それはそれで美味しそうだけど。

半笑いで仕込んだメモだったが、効果てきめんだったな。

それにしても、うっかり二人分作ってしまう癖がついている自分に驚いた。

ちょっと前まで…一人分が当たり前だったのに。

今では、すっかり二人分お弁当を作ることに慣れてしまっている。

作り始めた頃は、お嬢様育ちの寿々花さんが、俺の手抜き弁当なんて、どうせ一週間もすれば飽きるだろうと思ったものだが。

一週間どころか、一ヶ月経っても二ヶ月三ヶ月以上経っても、未だに俺の弁当を持って行ってるんだもんなぁ。

飽きねーのかな?

飽きるどころか、未だに「今日はウインナーがタコさんだったー」と大喜びし。

「今日のお弁当に入ってたチーズちくわ(←ちくわにチーズ入れて焼いただけのもの)美味しかったー」と目を輝かせ。

「グラタンの占い(←占い付きの某冷凍食品)が星5つだった」と自慢げに報告してくれる。

冷食の占いで喜ぶなよ。お嬢様が。

そんなことを思い出しながら、俺はその占い付き冷食グラタンを弁当に入れた。

俺も、これ星5つだったら良いな。

結構頻繁に買うんだけど、俺の場合ほとんど星1〜3未満なんだが?

何とも味気ない気分で、一人分のお弁当を作り終え。

いつも通りの時間に、俺は家を出て学校に向かった。

夕方、また誰も居ないこの家に帰ってくることになるのかと思うと、何だか既に気が滅入った。




…の、だが。

そんな呑気なことを考えていられたのは、この時までだった。
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