アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「はーい、皆さん集まってくださーい」

その体育教師の指示で、俺達はぞろぞろと先生の周りに集合した。

俺達が寒さに震えてるっていうのに、この先生は、白い温かそうな長袖ジャージを羽織っていた。

引っ剥がしてやりたい。それ。

「…あれ?半袖でって指示しましたよね?あなたはどうして長袖を?」

その先生が、一人長袖ジャージ姿の乙無に向かって尋ねた。

当然である。

あーあ、乙無…。怒られても知らんぞ。

しかし乙無は、わざと神妙な顔をしてこう答えた。

「僕には、素肌を晒す訳にはいかない深い理由があるんです」

「あっ…。そ、そうなんだ。じゃあそのままで良いですよ」

「ありがとうございます」

…驚くほど、あっさり許可が降りていた。

皮膚の病気とかアレルギーとか、そういう心配してくれたんだと思う。

確かに乙無は病気だよ。

厨二病という病気な。

畜生…。そんな簡単な言い訳で長袖の着用が許されるなら、俺も着てくれば良かった。

正直者が馬鹿を見る時代だよ。

「なぁなぁ、女子部の体育の先生、初めて見たけどさ。意外と美人じゃね?」

興味津々、下心満々の様子で、雛堂が俺の肘をつついてそんなことを言った。

また雛堂が下らないこと言ってるよ。

「知るかよ…。どうでも良いよそんなこと…」

「おいおい。女子校の体育の先生だぞ?ちゃんと拝んどかないと損じゃないか。こんな機会でもないとお目にかかれないんだからな」

どうでも良いわ。体育の先生なんて。

「いかにもクールビューティーって感じで、良いよな〜。愛の熱血指導とかしてくれそうじゃね…!?」

「…何言ってんの?あんた…」

普通にドン引きなんだけど。頭おかしくなってんじゃね?

ちょっと他人の振りしたいから、俺から離れてくれるか。

乙無も、下心にまみれた醜い雛堂をジト目で見ていた。

何がクールビューティーだよ。なぁ?

そういう顔してる奴に限って、実はとんでもない無理難題を要求してきたりするんだよ。

「それでは、これから今日の授業内容を説明します…。男子部の皆さんは…」

例えば、そう…これから全校生徒で、

「午前中いっぱいかけて、校外20キロマラソンに挑戦してもらいます」

…そう。丁度俺が今言おうとしたことを言ってくれたな。

凄く良い笑顔で、名案!とでも言いたそうな表情で。

案の定、いきなりとんでもないことを言い出したよ。
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