アンハッピー・ウエディング〜後編〜
早速、買い物を開始する寿々花お嬢さん。

まずは野菜コーナーだな。

野菜は大切だぞ。野菜の入ってないカレーなんて、カレーじゃないからな。

ニンジンと玉ねぎとじゃがいも。最低限これらは必須だろう?

間違えずに買ってきてくれよ。

「えーっと、何を買うんだっけ…」

早速立ち止まる寿々花さん。

メモだよ、買い物メモ。今こそ買い物メモを見るときだ。

「あ、そうだ。悠理君がメモを書いてくれたんだった」

そうだ、よく思い出した。

メモを確認して、買ってくるものを確認…、

「…あのメモ、何処にやったっけ…?」

まさかの、買い物メモを紛失。

何をやってんだよ、あんたは。

忘れないようにメモを書いてきたのに、そのメモを忘れたら意味がないだろ。

「うーん。何処にやったかな…?」

寿々花さんはスーパーの入り口に突っ立って、ポケットを探り始めた。

しかし、見つからないメモ。

「…どっか行っちゃった…」

一大事じゃないかよ。

途方に暮れるんじゃないかと思ったが、寿々花さんは。

「うーん…。確か、今晩はカレーだって、悠理君言ってたよね…」

おっ。今晩のメニューを思い出したな?

そうだよ。買い物メモなんかなくても、カレーの材料を買ってきてくれれば良いんだ。

「カレーに使うお野菜…。…どれだろう」

頑張って思い出せ。俺がいつも、カレーに何入れてるか。

「まずは…おイモだよね?」

そう、それ。じゃがいもな。

何だよ寿々花さん、分かってるじゃないか。

買い物メモなんかなくても、きちんとカレーの材料を買って、

「あ、見つけた。これだー」

と言って、寿々花さんがかごの中に放り込んだのは。

イモはイモでも、じゃがいもじゃなくて里芋だった。

…何で里芋?

違う、寿々花さん。それイモ違い。

口に入れれば、全く違うってことが分かるんだろうが。

皮付きの状態で袋詰されていたら、区別がつかないらしい。

ま、まぁ良い。イモはイモだ。

里芋入りのカレー…。それはそれで美味しそうじゃないか?

かろうじてセーフラインってことで。

「次は…何だっけ。他に何が入ってたかな…?」

頑張って思い出すんだ、寿々花さん。

他に必要なのは、ニンジンと玉ねぎ…なのだが。

「彩りって大切だよね。茶色ばっかりじゃ彩りが良くないし…」

壊滅的な料理下手の癖に、彩りについて語り始めたぞ。

いっぱしに彩りなんて気にするのは、料理上級者になってからだろ。

でも、彩りは大切だ。

そこでだよ、そこで、色鮮やかなニンジンを買って…、

「よし、これにしよう」

寿々花さんが手に取ったのは、まさかのパプリカ。

違う。鮮やかだけど。黄色で綺麗だけど、でもそれはカレーの材料じゃない。

何故、素直にニンジンを選んでくれないのか。
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