アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…その場に取り残された俺達。

クールビューティーとか言ってテンション上がってた雛堂も、これにはポカーン顔である。

クールビューティー教師は、言うこともやることもクール過ぎるな。

俺達に冗談みたいな課題を出して、自分はさっさと帰ってしまうとは。

…嘘だろ?

誰か嘘だと言ってくれ。

「あ、あんの体育教師…何考えてんだよ…!?」

と、絞り出すような声をあげる雛堂。

本当にな。何考えてんだろ。

いや、むしろ何も考えてないんじゃね?だからこそ、「走れ」という適当な指示を出したのでは?

わざわざ全校生徒を集めて、何をさせられるのかと思ったら。

まさかのハーフマラソン。

絶対、素人が安易に手を出して良い課題じゃない。

死ぬぞ。

中学の時もマラソン大会はあったけど、精々10キロくらいだったぞ。

それでも死にそうなくらい疲れたのに、今度はその倍だってよ。

気が遠くなるな。

「午前中いっぱいかけて良いって言ってたけど、帰ってこられんのか…?20キロって走ったら、どれくらいかかんの?」

雛堂が聞いてきた。

…俺に聞かれても…。

中学の時の10キロマラソン、時間どれくらいかかったっけな…もう覚えてないや。

すると。

「普通に走ったら、平均大体2時間くらいですかね」

乙無が、雛堂の問いに答えた。

へぇ、2時間。そんなもん?

もっと、それこそ体感4、5時間くらいかかりそうなもんだけど。

人間って、意外と足速いんだな。

…って思ったけど、2時間って、軽く映画一本分の時間だからな。

映画一本観てる間、ひたすら走り続けろって言われたら…普通に死ねるぞ。

地獄じゃん。

「無理に決まってんじゃん。自分ら陸上選手じゃないんだぞ…!?」

「だから、途中で歩いたりしても良いって言ってたじゃないですか」

「そういう問題じゃねーよ!」

その通りである。

多分、この場にいる男子生徒、皆同じことを考えているに違いない。

なぁ。真面目にさ、今こそ男子部の団結力を見せる時なんじゃね?

朝学校にやって来て、半袖シャツで校庭に集められて、いきなり20キロマラソンって。

いくらなんでも理不尽が過ぎる!ってさ。全員でストライキを起こそう。

あんなクールビューティー(笑)体育教師の言うことなんか無視してさ。

校舎に帰って、全員不貞寝してようぜ。

そのくらいのことは許されるんじゃないかと思うんだよ。日頃から俺達、いっつも割りを食ってばっかじゃん?

…しかし、俺達男子生徒に、そのような連帯感はなく。

ストライキを呼びかける声も、サボタージュする意志もなく。

ここで愚痴っていても、20キロの距離が少しでも縮まる訳でもなく。

一人また一人と、諦めたように走り出し始めた。
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