アンハッピー・ウエディング〜後編〜
最初に動いたのは、三年生の先輩達だった。

さすが、この男尊女卑の聖青薔薇学園で三年間過ごした先輩達。

この程度のことはいつものこと、と言わんばかりに諦めが早い。

奴隷根性が染み付いてやがる。

その先輩達を皮切りに、次に二年生の先輩達が走り出し始め。

残ったのは、俺達一年坊主だけ。

「…」

「…」

先に走り出していった、勇気ある先輩達の背中を見つめながら。

俺達は、無言で互いにチラチラと視線を交わした。

とてもじゃないが、20キロマラソンなんて無理だよな、という気持ちと。

でも先輩達は走ってるし、俺達だけ逃げ出す訳にはいかないよな、という気持ちが相反している。

…分かってるよ。

結局諦めるしかないんだろ?…この学校にいる限りは。

視線を交わしながら、「お前先に行けよ」、「いやお前が」という無言のやり取りをしている同級生を、しばし眺めていると。

…ついにその中の一人が、諦めたように走り出した。

…あぁ。行ってしまったか。

一人が走り始めると、それに呼応するように、他のクラスメイト達も後に続いた。

走るのは嫌だけど、でも置いていかれるのも嫌だもんな。

分かるよ、気持ちは。

要するに、行くしかないってことだよなぁ…。

「マジかよ…。皆、行くのか…」

雛堂、絶句。

何だかんだ、程度の差こそあれ。

俺達男子生徒は皆、奴隷根性が身に付いているのかもな。

この学校で過ごすうちに、無意識に。

「…どうする?雛堂、乙無…」

「どうするも何も、誰も逆らわないんだから走るしかないでしょう。愚痴るより、黙って少しでも足を踏み出せば、その分ゴールに近づきますからね」

乙無、あんた良いこと言うな。

その通りなんだけど…でも、その勇気がなかなか出ないのが人間ってもんなんだよ。

最初の一歩が辛いんだよ。一番。

それなのに。

「それじゃ、僕は先に行きますね」

乙無は俺と雛堂を置いて、さっさと走り出してしまった。

あっ…先を越された。

躊躇っていた他のクラスメイト達も、次々に諦めて、走り出していく。

このままじゃ、俺と雛堂だけ取り残されそう。

「…畜生、こうなったらもう…やけっぱちだ!」

堰を切ったように、雛堂がそう叫び。

「うぉぉぉーっ!」

超全力猛ダッシュで、全力疾走していった。

…あーあ、あの馬鹿…最初からあんな全力疾走したら、途中から重い反動が来るだろうに…。

…でも、雛堂も走り始めたな。ヤケクソだけど。

こうなっては、俺ももう諦めるしかなかった。

…まぁ、いっか。

前向きに考えようぜ。

少なくとも、走っている間は…寿々花さんのこと、考えずに済むだろうからな。

俺の気を逸らしてくれてんだよ。全くなんて有り難い課題だろうな。畜生。

俺は先に走り出したクラスメイト達を追って、いよいよ一歩を踏み出した。
< 262 / 645 >

この作品をシェア

pagetop