アンハッピー・ウエディング〜後編〜
こうなったら、もう無だ。

ひたすら心を無にして、心頭滅却して走るしかない。

さっきまであんなに寒かったのに、1キロも走らないうちに、身体中がじっとりと汗ばみ始めた。

同時に、少しずつじわじわと、足に疲労が蓄積していくような気がした。

おいおい。いくらなんでも早過ぎないか?

せめて中間地点の10キロに到達するまでは、余裕を持って走らないと。

後半バテまくるぞ。

その証拠として、

「はーっ、はーっ…。ひふーっ、し、死ぬ…」

俺より先に全力疾走していった雛堂に追い付くと。

雛堂は、既に死にそうな顔になって、よたよた走っていた。

ほらな。言わんこっちゃない。

最初から全力疾走なんかするからだよ。そりゃ途中でバテるに決まってる。

まだ一周目だぞ。その調子で大丈夫か?

…って、俺も人のことは言えないけどな。

20キロなんて長距離、当然走ったことはないから…。どのようにペース配分して良いのか分からない。

多分、ゆっくりめに走った方が良いんだろうとは思う。体力温存の為に。

でも…あんまりダラダラ走ると、逆に余計疲れそうな気がしないか?

それより、前半ちょっと飛ばし気味で、後半バテても良いから…。

少しでも体力が残っているうちに、出来るだけ距離を稼いでおくべきか?

それとも、最初から最後まで一定のペースを保って走るべきか?

うん、分からん。

マラソンど素人の俺に、そんなクレバーな判断を要求してくれるな。

とにかく、無我夢中で走るしかないということは確かである。



…などと、走るペースについて呑気に考えていられたのは、この時までだった。

段々と、そのような考える余裕すらなくなっていくということを。

俺は後になって、嫌と言うほど思い知らされた。
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