アンハッピー・ウエディング〜後編〜

しかし。

本当の地獄は、ここからだった。

8キロ〜9キロ地点で、既に俺の疲労はマックス状態。

冗談だろ。まだあと半分以上残ってるのに。

この時点で、既にバテている。

思い出したよ。中学の時のマラソン大会も、こんな感じで死にそうになりながらゴールインしたっけ。

人間、辛いことって忘れるように出来てるもんだなぁ。

俺にしては、結構頑張った方じゃね？

俺だけじゃなくて、周りを走っている男子生徒達、皆俺と同じ感じ。

死にかけた魚のような目で走っていた。

走るって言うか…あまりにも疲れて、もう小走り…単なる早歩きみたいになってるけど。

足が重い…。鉛の重石でもつけられたかのように足が重いよ。

すると。

「おー、悠理兄さん…。あんた、まだ頑張ってたのか…」

聞き覚えのある声がして、とうとう俺も天からお迎えが来たのか、と遠い頭で考え。

いや、天の神様がこんなだみ声のはずがない、と正気を取り戻して、ふと背後を見ると。

周回遅れの俺より、更に周回遅れの雛堂が、てくてくと歩いていた。

おい。呑気だなあんた。何歩いてんだ。

「もう疲れただろ。走るのやめて、ちょっと歩いたらどうだ」

悪魔の囁きやめろ。

…と思ったけど、俺もそろそろ限界だ。

あと1キロ走れたとしても、あと2キロは絶対走れない。その確信がある。

自分のことは、誰より自分が分かってるからな。

悪魔の誘惑に負け、俺はとうとう走るのをやめ。

雛堂と肩を並べて、歩き始めた。

情けない奴、って思ったか？

今すぐ外に出て、俺と同じように20キロ走ってみろよ。

9キロ地点を越えた辺りで、限界が来るからさ。

余程のジョギング、マラソン好きな人ならいざ知らず。

ど素人の俺には、この辺が限界だ。

むしろ、よく頑張った方だと褒めてもらいたいね。

それに、走るのを諦めて歩いているのは、俺と雛堂だけではない。

他の男子生徒達もちらほら、走ったり歩いたりを繰り返す者が増え始めた。

そりゃそうだよなぁ…。

いくら体力の有り余った男子高校生でも、20キロも涼しい顔して走れる奴がいるもんか。

そんなことが出来るのは、陸上経験者と、邪神の眷属(笑)くらいだよ。

歩きながら息を整えると、ようやく生き返ったような気がした。

はー…。つっかれた…。

…って、恐ろしいことに俺達、まだ半分の距離にも達してないんだよな。

もういっそ、残り11キロくらい、歩いて踏破しようか。

果たして、それで昼休みまでに戻れるかどうかは分からないけど…。

ずっと歩いてると思われないように、先生が抜き打ちで様子を見に来る時と、新校舎〜旧校舎周りだけは走って。

監視の目が届かない街中に出たら、ずっと歩く。これで良いと思う。

我ながら姑息だが、そのくらいしても許されるんじゃないか。