アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「ったく、ひでぇ話だよな。新校舎の女子生徒が優雅にヨーロッパ旅行してる間に、自分達は抜き打ちマラソン大会だぜ?」

歩きながら、雛堂はぷりぷりと怒っていた。

…それを言うな。

今走ってる男子生徒達、多分皆同じことを考えてると思うよ。

今に始まったことじゃないけどな。

女子部の新入生が京都旅行に行ってる間に、俺達は校舎の掃除と草むしりさせられたり。

遠足だって、女子生徒が日帰り豪華客船スルーズに行ってる間に、俺達は動物園(爬虫類限定)だったり。

文化祭のクラスの出し物だって、男子部と女子部では予算が倍以上違ってたし。

とにかく日常的に、色んなことで差をつけられまくってるからな。

で、今回はこの仕打ちだろ?

もう、少々のことでは驚かなくなってきた。

「来年の自分らは、さぞや豪華な修学旅行に連れてってもらえるんだろうな…!?」

「そんな訳ないだろ…。京都行って生八ツ橋食ってりゃ御の字ってところだ」

「ちくしょーっ!自分もイタリアに行って、ピザとソーセージ食べまくりたかったー!」

「…ソーセージはドイツじゃね…?」

しょうがない。日本で食えよ。

良いじゃん。豪華なヨーロッパ旅行なんか行かなくても。

京都で生八ツ橋食べてりゃ充分。

俺達はイタリア語なんて喋れないんだし。

「はぁ。腹減ってきた…昼飯までに帰れるのかなー」

「さぁ…。雛堂は周回遅れの上に更に周回遅れだからな…。午前中どころか、今日中に帰れたら良いけど」

「辛辣!さすがに今日中には帰れるって」

…本当か?

既に俺達、マラソンじゃなくて競歩大会みたいになってるからな。

時間制限がないとはいえ、あんまり悠長にしている訳にも…。

…と、思っていると。

「見覚えのある二人だと思ったら、あなた方でしたか」

「あ、乙無…」

後ろから、また乙無に並んだ。

相変わらず乙無は、ペースを乱さずに涼しい顔で走っていた。

また後ろから追いつかれたってことは…俺、乙無と比べると周回遅れの周回遅れ?

つまり、俺は乙無より二周、雛堂は三周遅れてるってことになる。

すげーな。乙無、あと何周だ?そろそろ完走では?

あんた、マジで化け物なんじゃね?

「とうとう悠理さんまで、走るのやめて歩き始めたんですね」

「良いだろ、別に…。俺にしては頑張った方だよ」

俺だけじゃなくて、他の生徒達もほとんど歩いている。

あんたくらいだよ。変わらず走り続けてるのは。

「この辺ならまだ良いですけど、学校が近づいてきたら走った方が良いですよ」

「…そうだな…。先生に見られたら厄介だし」

正直もうめちゃくちゃ疲れてるからさ。

一度こうして歩いてしまうと、もう一回走り出すのは一苦労。

それに、昼休みまでに帰りたいしな。あんまりのんびりはしていられない。

「じゃ、僕は先に行きますよ」

と言って、乙無はまた軽い足取りで走り出していった。

…疲れとか知らないんだろうか。あいつは。

この分だったら、乙無が一番乗りなんじゃねーの?
< 266 / 645 >

この作品をシェア

pagetop