アンハッピー・ウエディング〜後編〜
その後俺は、走ったり歩いたり、ちょっと休んでまた走ったり歩いたり、を繰り返した。

校舎が近づくと走り始めて、校舎が遠ざかるとまた歩く、みたいな。

8〜9キロ地点ではあれほどしんどかったのに、不思議と後半の数キロは、前半より楽だった。

なんつーか、無我の境地に達した?みたいな。

あまりに疲れ過ぎて、防衛本能で身体が一時的に疲れを忘れようとしていたのかもしれない。

とりあえず、明日の筋肉痛が恐ろしい。

…ともあれ。

歩いたり走ったりを繰り返しながら、何とか20キロの道のりを踏破。

無事、昼休み前に完走出来た。

「はぁっ…。はぁ、死ぬ…」

ゴールしたというのに、達成感や喜びはない。

タイム測ってる訳じゃないしな…。ただただ、無意味に走らされただけ。

もうあのクールビューティー体育教師の授業は、二度と受けたくない。

でもやり遂げたぞ。そのことを称えて欲しい。

俺は体操服が汚れるのも構わず、地面に座り込んでしまった。

テレビで駅伝とか見てるとさ、走り終えたランナーが、よくその場に倒れ込んだり、しゃがみ込んだりしてるが。

あの時の気持ちが分かった。

そりゃ倒れ込みたくもなるわ。正直、もう何もしたくない。一歩も歩けない気分。

すると。

「お疲れ様です、悠理さん。遅かったですね」

「…乙無…」

座り込んだ俺の後ろから、乙無が声をかけてきた。

自販機で買ったらしい、冷えたスポーツドリンクを差し出しながら。

おぉ、乙無…。あんた、いたのか…。

…遅くて悪かったな。これでも頑張ったよ。

「あんた、結局…何番だったんだ?」

「勿論一番でしたよ」

…だよなー。

一人だけ別次元って感じだったもんな。

「あまりにぶっちぎりだったせいで、2番の人が来るまでにかなり時間がありましてね」

「そうだろうな…」

「何周か誤魔化したんじゃないかって、体育教師に疑いの目を向けられましたよ。全く失礼だと思いませんか?」

無理もないだろ。

皆がまだ走ってるのに、一人だけぶっちぎりで早かったら、そりゃそうなる。

しかも、一人だけ長袖ジャージ姿で。

「皆さん、遅過ぎません?たかが20キロ走るだけでしょう?走るだけで良いなら、子供でも出来るのに」

「誰もがあんたみたいに、人間やめてる訳じゃないんだよ…」

単純なことほど、極めるのは難しいもんだよ。

ましてや、不意討ちでいきなりハーフマラソンだからな。

こんな目に遭わされると知っていたら、雛堂と結託して今日の授業はサボっていただろう。

多分俺だけじゃなくて、クラスメイトの半分くらいはサボってたはずだよ。

文化祭の時も、大概だったけど。

さすがに今日は疲れた。多分、これまでの学校生活で一番疲れたよ。

そう言っても過言ではない。

これさぁ、金曜日だったら良かったのに。土日挟んで休めるじゃん?

恐ろしいことに、今日月曜日なんだぜ。

一晩寝たくらいで、この疲労が取れるとは思えない。

明日は疲労感+筋肉痛で、クラスメイト全員悲鳴をあげてるだろうな。

多分何人か休むと思う。正直、俺も休みたかった。
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