アンハッピー・ウエディング〜後編〜
乙無が差し入れてくれたスポーツドリンクで、喉を潤し。

校庭に座り込んで、悲鳴をあげている両脚をマッサージしていると。

そこに。

「死ぬ〜っ!もう無理、死ぬ〜っ!」

「あ、雛堂…」

ぐったりとした雛堂が、倒れ込むようにしてゴール。

お疲れさん。

「もう無理、死ぬ。死んだ。絶対死んだって!もう。今ここにいるの、自分の亡霊だから!」

めっちゃ喋るじゃん。

心配ない。まだまだ余裕そうだな。

「確かに人間の命は軽いものですが、さすがにその程度では死にませんよ。たかが走るだけで死のうとするなんて、片腹痛い」

乙無が、やれやれとばかりに溜め息をついた。

まぁ、そう言ってやるなって。

俺も雛堂も、他のクラスメイト達も、皆大同小異の状態で。

グラウンドに座り込んだり、倒れ込んで横になっている者までいる。

死屍累々、って感じだな。

この場面だけ抜粋して見られたら、多分見た人全員ぎょっとすると思う。

一体何が起きたんだ、と。

何も起きてないよ。ただ走らされただけだ。

「まぁ、良かったじゃないか。ギリギリ昼休みには間に合ったぞ」

ずっと歩いてんのかなと思ってたけど、あれから、雛堂も走ったり歩いたりしてたんだろうな。

出なきゃ、昼前に辿り着けなかっただろう。

「だって、ビリになるのは嫌じゃん!よくいるだろ?持久走一緒に走ろうねーとか言いながら、ゴール直前で裏切る奴」

いるな。そういう奴。

「ああいう奴にはなりたくねーからな。潔く走ってゴールしてやったわ。見たか!」

「はいはい、見てたよ…」

「疲れ過ぎて死ぬ〜っ!もう一歩も歩けねぇ!」

校舎までは歩いてくれよ。さすがに背負っていく体力はないからな。

果たして今日、家まで歩いて帰れるだろうか?

タクシー呼ぼうぜ。皆で。

あるいは、もういっそ今晩は学校に泊まるってことで。

冗談じゃなくて、マジでそう思うほど疲れていた。
< 268 / 645 >

この作品をシェア

pagetop