アンハッピー・ウエディング〜後編〜
里芋入りのカレーは、まだ美味しそうだと思える。

しかし、そこにパプリカが入ったら…。

何だか、途端に不味そう。

それとも、意外に合うのだろうか?パプリカ入りのカレー…。

カレー味って、大抵どんな食材にも合う万能な味付けだと思うんだが。

それでも、限度ってものがあるからな。

カレー味なら何でも許される訳じゃないんだぞ。

どうしよう?止めるべきだろうか?

物陰から出ていって、パプリカはカレーの材料じゃない、って教えるべきか?

でも、俺が口を出したらお使いの意味が…。

…って、こうして尾行してる時点で、既にお使いじゃなくなってるっての。

すると、寿々花お嬢さんは。

手に取ったパプリカをかごに入れようとして、ふと手を止めた。

…おっ?

「…でもこのお野菜、何だかピーマンに似てる」

…まぁ、そうだな。

でっかい色付きのピーマンみたいなものだろ?パプリカって。

肉厚で美味しいけど、ピーマンに比べるとやっぱりコスパが良くないから、結局いつもピーマンを買ってしまう。

根っからの貧乏性である。

「ピーマンは…あんまり好きじゃないなぁ…」

と、呟く寿々花さん。

子供舌の寿々花さんは、苦い味のピーマンが苦手である。

一学期に行われた家庭科の調理実習のお陰で、ある程度好き嫌いを克服したが。

それでもやっぱり、ピーマンはまだ苦手であるらしい。

それ、ピーマンじゃなくてパプリカだけどな。

「やめよーっと」

寿々花さんは、手に取ったパプリカを商品棚に戻した。

すんでのところで、パプリカカレーは回避。

ナイス、ファインプレー。

偉いぞ、寿々花さん。そのまま、すぐ後ろにあるニンジンに気づいてくれ。

振り返るんだ、寿々花さん。振り返ってニンジンを見つけるんだ。

物陰から、必死にテレパシー(?)を送り続ける。

すると、そんな俺の一念が通じたのか。

寿々花さんは、その場でくるりと振り向いた。

おっ、偉い。

じー、っと商品棚を見つめている。

そこにニンジンがあるだろ?それを手に取るんだ。

ニンジンなら、寿々花さんも食べられるだろ。

以前は、星型じゃないと食べられなかったが。 

今では好き嫌いを克服して、いちょう切りでも千切りでも食べられるようになった。

そんな思い出深い(?)野菜のはずなのに。

寿々花さんが手を伸ばしたのは、袋詰めされたニンジン…ではなく。

「よし、これにしよ」

そのニンジンの隣に並べられていた、かぼちゃだった。

何でそうなるんだよ。

確かに、ニンジンに負けず劣らず色鮮やかではあるものの。

違う。そうじゃない。

寿々花さんは、今度は躊躇うことなく。

かぼちゃをかごに入れ、ニンジンに背を向けた。

あぁ…気づいてもらえなかった…。
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