アンハッピー・ウエディング〜後編〜
そして、待ちに待った放課後。

正直もう、家に帰る体力も残ってなかったんだけどさ。

さすがに学校に泊まる訳にはいかないから、歩いて帰ったよ。

ただし、いつものようにスーパーに買い物に行くのはやめた。

冷蔵庫の中空っぽだけど、買い物してる余裕はない。

夕飯?…良いよもう、何でも。ご飯にお茶だけかけたお茶漬けで良い。

何なら、今日だけは自分へのご褒美として、出前を取る。

なんて贅沢。一年に一度の出血大サービスだ。

それくらい疲れてた。

クラスメイトは誰も彼も、疲労の色濃く滲んだ表情をしていた。

飄々としていたのは、乙無だけだよ。

こいつ、マジで人間やめてんじゃね?って皆思っていたに違いない。

何度も途中で止まりそうになりながら、やっぱりタクシーが通りかかるまで待とうかとか、あれこれ考えながら。

のろのろと歩いて、ようやく自宅に辿り着いた。

あぁ…家までの道のりが、これほど長く感じる日が来るなんて。

気の所為かな?自分の家のはずなのに、玄関が天国への扉に見える。

「ただい、」

ま、と勢い良く天国の扉を開けようとしたが。

鍵のかかっている扉を、ガチャッと引っ張っただけだった。

…天国、まさかの入国拒否?

え?地獄に行けと?俺は地獄行きだってこと?

と、しばし考えて…そして思い出した。

…そうだった。

今、家に誰もいないんだった。

寿々花さんは今…イタリアに修学旅行に行ってるんだった。

馬鹿なのか?俺。また忘れてたよ。

…なんか、今この瞬間、今日一番どっと疲れたような気がする。

思わず、へなへなと玄関前に座り込んだ。

ひでぇよ…。こんな酷いことがあるか?

もう家に入るの面倒だから、このまま玄関前に座って一晩を明かそうかな…。

なんて馬鹿なことを考えていると、そこに。

家の前の歩道を歩いてくる、買い物帰りのおばさん、いや、ご婦人方の声が聞こえて。

俺は、ハッとして立ち上がった。

家の前で座り込んでいるところを見られたら、「締め出しか?」「追い出されたのか?」と疑いの目を向けられることは間違いない。

めちゃくちゃ疲れていながらも、一応恥ずかしいと思う気持ちは残っていたらしい。

ってことは、俺もまだ、意外と余裕あるのかも?

俺はカバンの中から鍵を出し、家の前を通りかかったご婦人方に、「今帰ってきたばかりですけど何か?」と言わんばかりの、余裕そうな背中を見せつけ。

鍵を開けて、家の中に入った。

「…ただいま…」

小さな声でボソッと呟いても、当然、「お帰り」と返ってくる言葉はない。

…何だろう。心に隙間風。

扉を閉めるなり、思わず、またその場にへなへなと座り込んでしまったが。

このまま玄関に蹲っていても、どうしようもないし。

這うようにして浴室に行き、まずは待望のシャワーを浴びることにした。
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