アンハッピー・ウエディング〜後編〜
一瞬にして、俺は全身を襲う気怠い疲労感を忘れた。

「す、寿々花さん…。今何処から掛けてきてるんだ?」

『えっとね、ホテルの中にお電話コーナーみたいなところがあって、そこから』

そんなところがあるのか。

電話ボックスみたいな?

そうだよな。寿々花さん、携帯電話と言うものを持ってないから。

出先で電話しようと思ったら、公共の電話ボックスを使うしかない。

ホテルの電話だけあって、国際通話も可能なんだな。

「どうしてる?元気か?」

俺は無意識に、一番聞きたかったことを尋ねていた。

「ううん、元気じゃない。帰りたい…」なんて返事だったら。

疲労も何も忘れて、今すぐ空港に迎えに行こうとするところだったが。

『うん。元気だよー』

相変わらず間の抜けた声で、このお返事。

…ホッ。

「楽しんでるか?イタリア旅行」

『うん。割と楽しいよー』

「そうか…」

それは…良かった。うん。

20キロ走り終えてゴールした時よりも、ホッとした。

「そっちは…今、何時なんだ?」

『お昼過ぎだよ。さっきランチにカルボナーラのお店に行って、デザートにジェラート食べてきたんだー』

満喫してんなぁ。イタリア料理…。

パスタにジェラートなんて、ド定番じゃないか。

そうか。こっちはもう日が暮れてるけど、向こうはまだお昼なんだよな…。何だか不思議な感覚。

『そっちはもう夜?悠理君、寝てた?』

「夜だけど…まだ寝てないよ」

まぁ、寿々花さんから電話が掛かってこなかったら、今頃ソファで寝落ちしてただろうけどな。

あんたが起こしてくれたんだよ。助かった。

「夕飯食べて、お茶飲んでゆっくりしてたところだ」

『そっかー。夜ご飯何だったの?』

「…うどん…」

まさか、買い物に行く元気がなくて、冷凍うどんに塩蔵わかめ乗っけただけの、手抜きうどんですとも言えず。

それなのに、寿々花さんは。

『うどんかー。良いなー、美味しそう』

いや、絶対本場イタリア料理のカルボナーラの方が美味しかったと思うぞ。

それとも、そろそろ日本食が恋しくなってきたか?

外国の料理って美味しいけど、たまに食べるから美味しいのであって。

やはり、毎日食べるのは家庭料理が一番だって言うもんな。

まぁ、俺の下手くそな料理よりは、本場イタリア料理の方が美味しいと思うけど…。
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